アアルトと言えば、曲線美が美しいアアルトの椅子があまりに有名ですが、彼は、モダニズムの建築家として、世界的に活躍しています。これは、アルヴァ・アアルトのことです。
今回の展覧会では、彼の妻で、パートナーであるアイノにも焦点があてられています。アルヴァとアイノ、二人だからなしえたアアルト夫妻の業績が、さまざまな視点から紹介されます。
二人の根っこにあるもの
アルヴァとアイノは、ともにヘルシンキ工科大学を卒業後、アルヴァが設立した建築事務所をアイノが訪れたことから、仕事上でも、プライベートでも、二人のパートナーシップが始まります。
新婚旅行に北イタリアを訪れた二人は、刺激を受けます。事務所で使うために、自らデザインした木製ライティングヴューローの引き出し上部のアーチ状の装飾は、イタリアのコロッセオをイメージさせ、思わずにんまりしてしまいます。
アルヴァの初期の建築のムーラメの教会にも、アルヴァらしさとともに、イタリアで受けた印象が現れています。
二人でともに
アルヴァが、ムーラメの教会やユヴァスキュラの労働者会館を設計する一方、アイノは、家族のための素朴な夏の家を設計しています。家族への愛にあふれた佇まいを見せています。
フィンランドの夏を、この家で家族と過ごす時間は、家族にとっても、子どもたちにとっても宝物のような時間だったことでしょう。
アイノ自らが描くヴィラフローラの絵に、それがよく表れています。
また、アイノが子どもたちのためにデザインした子供部屋と子供用の家具は、古さを感じさせません。それどころか、やさしさに満ち溢れた視点は、今こそ、取り入れたいものです。
二人が求めたもの
木材が豊富なフィンランドに住む二人は、木材による新たなデザインの可能性を模索していましたが、「木を曲げる」という発想に到達します。木材曲げ加工技術を完成させ、家具デザイナーとしての名声を確立します。
会場では、アアルトの椅子が並べられ、自由に座ることができるコーナーがあります。ぜひ、座り心地を体験してください。
さらに、「日常の暮らしにこそデザインが必要である」という思想から、アアルト夫妻は、ガラス製品のデザインを手掛けています。
アイノデザインの、イッタラ社の「ボルゲブリッグ」シリーズは、今なお、人気があります。
二人のヴィジョン、世界へ!後世へ!
アアルト夫妻の名は、その機能主義的な建築作品と家具、テーブルウエアなどによって世界に知られるのと同時に、活躍の場が世界に広がります。
なかでも、1939年のニューヨーク万国博覧会のフィンランド館のデザインなどによって、評価は高まり、アメリカのM.I.Tに教師として招かれ、大学の学生寮ベイカーハウスを設計します。これは、二人で手掛けた最後のプロジェクトの一つです。
残念ながら、ベイカーハウスの完成を見ることなく、アイノはなくなってしまいます。そのアイノの臨終をアルヴァがスケッチしています。二人の愛の深さ、パートナーとしての信頼の深さを感じます。
世に活躍した建築家は数多くいますが、妻とともに、ヴィジョンを共有し、ともに影響しあい、一つのものに昇華した夫妻というのは、アルヴァとアイノのアアルト夫妻をおいて知りません。
まだまだ女性の活躍が難しかった時代に、大いに活躍したアイノの才能に拍手を送りたいです。
そして、アアルト夫妻の作品を受け入れたフィンランドという国の豊かさ、暖かさも改めて認識した、とてもすばらしい展覧会でした。
[ 取材・撮影・文:atsuko.s / 2021年7月9日 ]
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