憲法や法律、規則やマナー、無意味の習慣など、私たちのまわりにある、さまざまななルール。多くの人々が円滑な社会活動を行うためにルールは役にたつ一方で、不用と思えるルールのために、有益な行動が束縛される可能性もあります。
これからの社会でともに生きるためのルールを、デザインでどのようにかたちづくることができるのか。ユニークな切り口の展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTで開催中です。

21_21 DESIGN SIGHT「ルール?展」会場
まずは鑑賞のルールを、自分で設定しましょう。展示室に下りる前の通路横で、展覧会を楽しむためのガイドが配布されていますが、表紙にスタンプを2つ押せます。
スタンプは12種類あり、展覧会を見るためのルールが書かれていますが、押す前には内容が分からないのがミソ。筆者が押したルールは「ヒトのかげをふんではならない」と「はなうたを歌わねばならない」でした。

「鑑賞のルール」佐々木隼(オインクゲームズ)
会場内の各所にあるのは、建築の法令や設計者の思想など、安藤忠雄が設計した21_21 DESIGN SIGHTの建物を対象に、さまざまなルールが解説されています。
人が触れる可能性がある鋭角の出隅は面取りする、トイレのサインはAIGA規格を用いる、ドアハンドルは株式会社ユニオンの通称「安藤型」を使う、などなど。会場内に計21ヶ所あります。

「21_21 to “one to one”」早稲田大学吉村靖孝研究室
作品ではありませんが、展示室の前に山積みになっている木製の箱もポイントです。
側面に穴が開いているこの箱は、来場者が自由に移動して、ベンチなどにして使えるもの。「建物の外には持ち出さない」など、最低限のルールだけが決められています。

来場者が自由に使える箱
小さな展示室・ギャラリー1では、ルールを制定する際にしばしば議論の的になる、多数決について。
ギャラリー内ではいくつかの質問が出され、来場者は「はい」か「いいえ」に移動。それまでの統計の数字が示されます。
多数決は民意を正確に反映できないと言われますが、一方で民主主義的な手法として広く普及しているのも事実です。

「あなたでなければ、誰が?」ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル)+田中みゆき+小林恵吾(NoRA)×植村 遥+萩原俊矢×N sketch Inc.
法を含むルールは、プロダクトの造形やグラフィックに影響を与えていることが、しばしばあります。
酒税法で分類されるビール系飲料、航空法の規制がかかるドローンの大きさ、現在は道路交通法で「原チャリ」と同じ扱いになる電動キックボード。日常的に目にするものに、ルールの影響が見て取れます。

「規制によって生まれる形」企画構成:菅 俊一、田中みゆき、水野 祐、
「ルールに縛られる」のは息苦しいものですが、それを逆手にとった作品が「四角が行く」。前から迫ってくるゲートをくぐり抜けるために、3つの直方体が回転して向きを変えます。
ゲートの開口部に合わせて静止した後、動いてきたゲートをスッと通り抜けるさまは、とても気持ちよく感じます。

「四角が行く」石川将也+nomena+中路景暁
その作品を見たうえで、会場最後の方で展示されているのが「ルールが見えない四角が行く」。
同じように直方体が向きを変えますが、ゲートに合わせて動くさまは手前のディスプレーに表示されているだけで、実際のゲートはありません。
意図を理解せずに見ると、直方体が無意味に回転しているだけ。盲目的にルールに従うさまは、外から見るとこういう事であると、示唆しているようです。

「ルールが見えない四角が行く」石川将也+nomena+中路景暁
「ルール=悪」ではありませんが、不要な決め事や謎の慣習は、時代とともに変わるべきでしょう。今回のコロナ禍においても、さまざまなルールが緊急避難的に定められましたが、それぞれの意義は改めて検証する必要があるでしょう。
法律家の水野祐、コグニティブデザイナーの菅俊一、キュレーターの田中みゆきの3名のディレクションで実現した本展。いかにも21_21 DESIGN SIGHTらしい軽やかなアプローチながら、かなり考えさせられました。強くおすすめいたします。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年7月1日 ]