明治維新という時代の劇的な変革は、近代日本美術にも大きな変化をもたらしました。フランスに留学をした黒田清輝によって始まる日本の洋画美術。
ひろしま美術館では、黒田作品を起点に、明治、大正、昭和の日本洋画を蒐集しています。令和を迎え、各時代の作品を俯瞰し、日本における西洋文化の受容の歴史を振り返ります。

各時代を俯瞰
そごう美術館主任学芸員、大塚保子氏に各時代の見どころをお伺いしました。
明治時代のお勧めは、黒田清輝の作品。外光派と言われる特徴がよく表れています。日差しを遮る手は、戸外の明るい光をより感じさせます。

黒田清輝「白き着物を着せる西洋婦人」1892年
大正時代は、岸田劉生の妹をモデルにした作品。麗子像と同時代で、大正期は、明治後期に受容した肖像画を消化し、それぞれが個性豊かに自己表現を追求しました。

岸田劉生「支那服を着た妹照子像」1921年
昭和は、梅原龍三郎の風景画。まず離れた位置からも伝わる力強さを感じて下さい。

梅原龍三郎「軽井沢秋景」1974年
近づくと、その力はさらに増します。夏から秋、軽井沢の燃えたぎる紅葉や、空に渦巻く雲の存在感、移りゆく葉の色、自然が持つエネルギーが画面に充満し、破裂しそうな迫力に圧倒されます。
一押しは、安井曾太郎のコーナー
パリでセザンヌの影響受け、描いたデッサンは、頭角を現すほどの実力でした。

第3章 安井曾太郎の木炭デッサンの貴重さ
しかし日本でいかに表現すればよいか、10年間、悩みました。その結果、自分の生活も写実的に描きその中にリアルを描くことに到達。裸婦と家族を一緒に描くという不思議な世界に至りました。一人の画家が、西洋に学び、変化を遂げた様子が伝わってきます。

安井曾太郎「画室」1926年
裸体像の変遷
西洋美術で重要な裸体表現を、日本に根付かせるために苦労した様子を俯瞰できるのも見どころです。

黒田清輝が洋画に必須とした裸婦像の吸収と発展
裸体表現を受容させるため、黒田は衣装をまとわせました。それを引き継ぐ画家たちも様々な工夫をします。手に梅や布を持たせ視線を移動させたり、後ろ姿を描いて直接表現を避けました。また、背景に西洋の伝統的構想画、絨毯や花を組み合わせるなど、日本独自の裸体像を展開します。時代の流れを比較できます。
風景画の変遷
風景画の変遷にも目をひきつけられました。写実を受容し消化して変容していく過程が通覧でき壮観です。色彩が明るくなり、新たな表現が登場していく様子が伺えます。

明治から大正における風景画の展開
洋画は遠近法の受容から始まりますが、時代が下るにつれ独自の表現が見られます。アトリエから見える田園風景は、日本で古くからあるモチーフの田植えを簡略化。浮世絵を思わせる雨を描きながら、写実とは違う自然を要約しています。田んぼの遠近表現から、地球は丸いを感じました。

児島善三郎「田植え」1943年
フランス中部の景色。川の消失点の先に広がる景色に、北斎の「江戸日本橋」を思い浮かべました。それでいて、前景は俯瞰、後景は水平と複雑な構成は、見ていて飽きない作品です。

岡鹿之助「積雪」1935年
近代日本洋画は、油彩の技法と出会い受容しつつも、日本の感性を守り、変化を遂げるパワフルさを感じます。また柔軟に対応した歩みは、閉塞しがちな今、力を与えてくれるように感じました。
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2021年5月15日 ]
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