20世紀を代表する彫刻家、イサム・ノグチ(1904-1988)。1つの素材や様式にとどまることなく、「彫刻とは何か」を追求し続けたノグチの作品を紹介する展覧会が、東京都美術館で始まりました。
第1章「彫刻の宇宙」は、1940年代から最晩年の80年代の作品を紹介。会場に入ると、柔らかな光の作品「あかり」のインスタレーションが広がっています。
岐阜提灯から発想を得て制作された「あかり」は、ノグチにとってライフワークとなった作品。150灯もの「あかり」が約15分毎に点滅しながら、会場を照らします。
第1章「彫刻の宇宙」 「あかり」インスタレーション ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
インスタレーションの周りには、1940年代から最晩年の80年代の作品が展示され、回遊しながら鑑賞ができます。
シュルレアリスムの影響がうかがえる《化身》は、複数のパーツの組み合わせによる彫刻になっているのがポイント。現世に現れたヒンドゥー教の神の姿を主題とした作品です。
第1章「彫刻の宇宙」 手前 《化身》 1947年(鋳造1972年)イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与)©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
1971年に制作された《ヴォイド》には、仏教用語で「すべてのものの存在する場所」という意味をもちます。禅的なイメージに魅了されていたノグチは、異なる素材とサイズで連作を手がけます。
実現には至りませんでしたが、高さが10mを超える巨大な《ヴォイド》の制作も望んでいたそうです。
第1章「彫刻の宇宙」《ヴォイド》1971年(鋳造1980年) ブロンズ 和歌山県立近代美術館蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
日本人とアメリカ人の両親をもつノグチは、幼少期を日本で過ごし、その後アメリカへ渡り彫刻を学びました。父・米次郎とは複雑な間柄で、自身のアイデンティティに苦しみながらも、彫刻の起源を追い求め作品に反映をしていきました。
ヨーロッパ、南米、アジアとフィールドワークを重ねた旅のなかで感じた、日本文化からみえる「軽さ」を作品の要素に取り入れます。
第2章「かろみの世界」「あかり」インスタレーション ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
第2章「かろみの世界」では、切り紙や折り紙からのインスピレーションを源にした作品を展示。金属板の彫刻や「あかり」のヴァリエーション、真紅の遊具彫刻《プレイスカルプチュア》などから、ノグチの生み出した「かろみの世界」を体感できます。
『「あかり(light:照明)」とは、「light:軽さ」であり、竹や和紙を用いて軽さを表現している。半透明で折りたたみが可能な光の彫刻のもつ柔軟さは、彫刻の新たな可能性を生んだ』と、ノグチは語っています。
第2章「かろみの世界」「あかり」インスタレーション ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
生涯を通じて遊園地の建設プランをもっていたノグチ。《プレイスカルプチュア》をはじめとする大形遊具は、子供たちが自由に駆け回り、遊びを通じて「世界との出会い」が育まれることを願ってつくられたものです。
力強さを感じさせる色鮮やかと軽やかなフォルムは、ノグチの揺るぎない信念を感じさせます。
第2章「かろみの世界」《プレイスカルプチュア》2021年、鋼鉄、茨城放送蔵
ノグチの制作拠点であったニューヨークと香川県牟礼町には、イサム・ノグチ庭園美術館が開館しています。「庭園」はノグチの彫刻の在り方を考える大切なキーワードであり、第3章《石の庭》では、2つの美術館の空間を再現した展示になっています。
最晩年の作品の数々も残る牟礼町のイサム・ノグチ庭園美術館は、ノグチが制作に取り組んだ野外アトリエ兼住居だったもので、ここでの作品がまとめて展示されるのは初めての試みです。
第3章《石の庭》 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
パブリックアートや照明として、知らず知らずのうちに目にしているイサム・ノグチの作品。制作に対する熱意や精神を知ると、見え方も変わってくるかもしれません。
ニューヨークや香川県のイサム・ノグチ庭園美術館ともまた違った“ノグチ空間”を感じてください。
[ 取材・撮影・文:古川 幹夫、坂入 美彩子 / 2021年4月16日 ]