美しい「乳白色の肌」を表現したことで知られているレオナール・フジタ(藤田嗣治)。10年前、その乳白色の肌にシッカロール(ベビーパウダー)を用いられていた事が話題にもなりました。
制作過程を見せることがなかったフジタですが、写真家・土門拳がアトリエを撮影した写真からその秘密が判明。その際に開催したポーラ美術館での 「レオナール・フジタ - 私のパリ、私のアトリエ」展 以来、10年ぶりにフジタの作品をテーマにした展覧会が開催中です。
ポーラ美術館「フジタ-色彩への旅」会場入口
今回のテーマは、旅と色彩。藤田が旅した土地を時代毎に追いながら、そこで出会った色彩も紹介します。
第一章では、1913年にパリに渡ったフジタの作品を紹介。当時描いていたのは、パリの城壁や都市の風景、素朴な人物画です。物価が高く貧乏学生だったフジタは、使い古しの紙や画廊から与えられたスケッチを使い、色彩も乏しかったため「色のない絵画」だと評論家から言われていました。
Ⅰ パリとの出あい - 「素晴らしき乳白色」の誕生
しかし、1920年代初め、フジタは乳白色の下地に極細の線でモチーフを描く独自のスタイルを生み出します。その表現にサロンでは「素晴らしき乳白色」と絶賛をされ、確固たる地位を築きます。モノクロームだった背景にも金箔が使われるなど、変化を感じることができます。
Ⅰ パリとの出あい - 「素晴らしき乳白色」の誕生
第二章からは様々な土地を訪れたフジタの“旅”を紹介。世界恐慌によりパリにも閉塞感が高まった1931年、フジタは中南米へ旅立ちます。ブラジル、アルゼンチン、ボリビア、メキシコを訪ね、自然や文化、人々から大きな影響を受けます。
1930年以降になると、作品のポイントとして“赤”が使われます。赤色を画面全体に用いて、補色となる緑や類似の青を使用。色彩の構成を研究し、効果的な“赤”の使い方を探究したことで、後の大壁画の制作にも繋がります。
会場には土偶や土器など、旅で出会った様々な土産物も紹介しています。
Ⅱ 中南米への旅 - 色彩との邂逅
南米旅行の後、フジタは制作の拠点を日本に移します。日本各地やアジアを旅したフジタが挑戦したのは、大画面の壁画です。
褐色調に濃い青色をバランスよく取り入れた「北方の力士」では、画面から中国の街の熱気を感じさせる作品となりました。
アジア旅行記 - 色彩による大画面の絵画へ
その後、日中戦争や第二次世界大戦が起こり、戦争の記録画を描くこととなります。しかし、戦後にそれらのバッシングを受けたことで日本を離れる決意。描きたいものを自由に描くようになり、“こども”と“キリスト教”の2つの大きなテーマで、キャンパスに向かいます。
Ⅳ 心の旅ゆき - 色彩からの啓示
1950年代以降になると、それまで描いていた裸婦の女性から、パリでは8割以上の作品がこどもをモチーフにした作品になります。
Ⅳ 心の旅ゆき - 色彩からの啓示
72歳の時、それまでの“藤田嗣治”から洗礼を受け、“レオナール・フジタ”としてカトリックに改宗。宗教画の構図や技法を学んだフジタは、本格的にキリスト教をテーマにした作品を制作します。
木彫と着彩を手がけた《十字架》では、表面には幼子イエス・キリスト像、裏側には苦悶の表情を浮かべるキリスト像を配し、表裏一体をかたどりました。
Ⅳ 心の旅ゆき - 色彩からの啓示
最後の展示室では、115枚のうちポーラ美術館が所蔵している95枚の「小さな職人シリーズ」が壁一面に並んでいます。自画像とも言える職人たちを、フジタのプライベートな空間をイメージした展示で観ることができます。
Ⅳ 心の旅ゆき - 色彩からの啓示
ポーラ美術館で同時開催している2つの展覧会も紹介します。
1つは、クロード・モネの《睡蓮》や《ルーアン大聖堂》など11点を紹介する「モネ ー 光のなかに」展。会場の構成を手がけたのは、気鋭の建築家・中山英之です。
モネが《睡蓮》を描いた時間を再現するため、作品1点1点に光をあてるのではなく、会場全体が曇り空のように演出されています。影をつくらないためにひかれた絨毯や反射をふせぐ曲線的な会場も特徴。まるで、時空を超えてモネがキャンパスに向かっていた時間を体感できる空間になっています。
「モネ ー 光のなかに」展 会場
現代美術作家の活動を紹介する「アトリウム ギャラリー」では、「岡田杏里 土の中で夢をみる」展が開催。芸術表現と美術館の可能性を「ひらく」という趣旨で進められている「HIRAKU PROJECT」の展覧会です。
見どころは、日本とメキシコで活動する岡田がメキシコの森を舞台に、植物や静物を鮮やかに描いた縦3m×横10mもの新作。ほかにも、蛇に見立てたエスカレーターやトーテムポールを思わせる柱などが美術館全体で楽しませてくれます。
「岡田杏里 土の中で夢をみる」 会場
フジタの展覧会だけでなく、新たな空間での作品鑑賞や鮮やかに彩られたフロアの細部まで、美術館丸ごとお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2021年4月16日 ]