200年以上の歴史をもち、ヨーロッパにおける5大エジプト・コレクションのひとつであるオランダのライデン国立古代博物館。約2万5千点にのぼるエジプト・コレクションから借用したミイラや棺が、Bunkamura ザ・ミュージアムに展示中です。
Bunkamura ザ・ミュージアム「ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展 美しき棺のメッセージ」会場入口
18世紀末、ナポレオンのエジプト遠がきっかけとなり、古代エジプトに関する知識がヨーロッパに広まりました。その後の遠征時に発見されたロゼッタ・ストーンを手掛かりに、言語学者がヒエログリフを解読したことで古代エジプトの様々な研究が進みます。
第1章では、ライデン国立古代博物館が現在も行っている発掘調査の様子を紹介しています。
第1章「エジプトを探検する」会場風景
多神教の古代エジプトの社会では、王は出身地の守護神や特定の神々と結びついていました。古代エジプトの都市・メンフィスの墓地域であるサッカラからの出土品も、数多く展示されています。
メンフィスにおける王家のハーレムの長であったホルミンは、“名誉の金”という勲章も授与された人物。《ホルミンの供養象》の左肩には彼の名、右肩にはラメセス2世の即位名が、背面にはメンフィスで最も重要であった神に宛てた供養文が彫られています。
第1章「エジプトを探検する」会場風景
今回の展覧会の大きな目玉は、立体展示された12点の棺。ミイラを呪術的にも物理的にも保護する棺に描かれた緻密で色彩豊かな装飾を、上から下までじっくりご覧いただけます。
第3章「エジプトを解読する」会場風景
展示している棺は、第3中期から後期王朝時代のものにあたり、時代による変遷が見られます。
黄色から黒、黄土色、クリーム色に変化する棺の色。描かれているものも、絵から文字へと変わっていきます。また、棺の形も時代が進むと足下に台がついたものや、ミイラ型の棺が出てくることがわかります。
第3章「エジプトを解読する」会場風景
生者と死者のやりとりを可能にするとされた彫像や、日常生活で男女問わず身に着けていた宝飾品も紹介。首飾りは、現世と来世の双方で使用されるものとされ、健康の象徴であるホルスの眼などの護符が付いていたり、神の肉体を表すと信じられていた金が用いられたものがあります。
第3章「エジプトを解読する」会場風景
来世で“永遠の生”を得ることを望んでいたエジプト人。ミイラとして肉体を保存することによって、死者の魂「バア」が肉体に戻ることができると考えられていました。
本展出品のミイラのCTスキャンによる解析結果を世界初公開。最新のスキャン技術でミイラの包帯を解くことなく、性別や年齢、装飾品の様子や身体の症状まで細かく解析することが可能になりました。
《センサオスのミイラ》 グレコ・ローマン自体 ローマ時代 109年 テーベ
高品質の木材が不足していた当時、絵師によって装飾された木棺は、裕福なエリート層だけが使えるものでした。
分析により、1度使われた棺を再利用していることも判明。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のカラ・クーニ―准教授が調査した122点もの棺のうち、60%以上は再利用の痕跡がみられました。また、性別によって装飾も異なります。例えば、男性の木棺には握りこぶしがあり、女性の手は開いた状態で表現されていました。
《パウィアメンのカルトナージュ》テーベ 後期王朝時代
古代エジプトは、さまざまな文化や言語、宗教が存在していました。「文字」もまた、X線やCTスキャンなどの分析を組み合わせ、手紙の送り主の特定や病気の治療に用いるための呪文も解明されています。
《パセルの神話パピルス》 テーベ 第3中期
ミュージアムショップでは、ヒエログリフを用いたグッズや「リラックマ」・「すみっコぐらし」とコラボレーションしたぬいぐるみなど豊富に展開しています。
多くの研究と技術の進歩により明らかとなってきている古代エジプトの魅力を体感できる展覧会。東京の後は、仙台、山口、兵庫へ巡回。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2021年4月15日 ]