※6月1日より10:00-20:00(火曜日のみ 17:00 まで)で営業
社会的に多様なアイデンティティを認める動きが加速するなか、現代アートの分野でも、女性アーティストたちの活動に大きな注目が集まっています。
森美術館で開催中の本展で紹介される16名のアーティストは、全員が女性。また、年齢は71歳から105歳までと、全員が50年以上のキャリアを積んでいるのも特徴的です。
森美術館「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」会場入口
では、順路に沿って紹介していきましょう。
フィリダ・バーロウ(1944-)は、イギリス生まれ。コンクリートや集合材、段ボールなど安価な工業用材料で、変容しつつある状態の立体作品を作ります。展示作品は巨大な花のよう。カラフルな色彩で、軽やかに感じられます。
フィリダ・バーロウ
リオデジャネイロ生まれのアンナ・ベラ・ガイゲル(1933-)は、ブラジルを代表するアーティストのひとり。初期に制作した身体と結びついた抽象作品のほか、写真、映像、彫刻などメディアを横断する作品も手がけています。ポーランド系移民の子として生まれ、創作には地政学的な国境やアイデンティティの影響も見て取れます。
アンナ・ベラ・ガイゲル
ロビン・ホワイト(1946-)は、ニュージーランド生まれ。1972年頃までは輪郭線を強調する絵画。1982年から17年間、太平洋上のキリバス共和国に滞在し、創作の幅を拡げました。。近年はキリバス、フィジー共和国、トンガ王国などの女性たちと共同制作を行っています。
ロビン・ホワイト
スザンヌ・レイシー(1945-)は、アメリカ生まれ。1970年代からロサンゼルスを中心に活動し、教育者、著述家としても活動しています。パフォーマンス、映像、写真、社会活動などさまざまな手法で、女性解放運動、人種差別、高齢化、暴力などの社会的課題に向き合います。
スザンヌ・レイシー
エテル・アドナン(1925-)は、ベイルート生まれ。1960年代からイメージと文章、東洋と西洋、近代と現代をかけ合わせた作品を制作。作品には大陸間、文化間を行き来する自身の人生が反映され、日本文化などにも大きな影響を受けています。また反戦運動への連帯感も表明しており、政治性も見てとれます。
エテル・アドナン
リリ・デュジュリー(1941-)は、ベルギー生まれ。身体、物質、文化の関係性を起点に、絵画から彫刻、映画、パフォーマンス、写真などを融合させ、表現領域を広げていきました。「静止」を重要視した作品が特徴的です。
リリ・デュジュリー
キム・スンギ(1946-)は、韓国生まれ。1971年からフランスに移住し、映像やパフォーマンス、インスタレーション、音響、彫刻、写真など多様な表現手法の作品で、国際的に活躍しています。近年はロボットやAIを用いたインスタレーションも展開しています。
キム・スンギ
アンナ・ボギギアン(1946-)は、カイロ生まれ。現在は遊牧民のように世界各地に滞在し、2012年のドクメンタ13以降、大規模個展や国際展に参加しています。展示されている作品は、ドローイングを切り抜いた紙人形劇のようなインスタレーション。会場では多くの人の目をひいていました。
アンナ・ボギギアン
ヌヌンWS(1948-)は、インドネシア生まれ。幼少期から画家志望ですが、偶像崇拝を禁じるイスラム教の伝統もあり、活動の初期から幾何学的抽象画に取り組んできました。イメージの源泉は、山の風景や太陽の光など、ジャワ島の自然環境に由来するものが多いようです。
ヌヌンWS
宮本和子(1942-)は、東京生まれ。1964年に渡米し、ニューヨークを拠点に活動。ミニマリズムに関する研究を続けており、綿密な設計図に基づくストリング(糸)を使ったインスタレーションのほか、彫刻やパフォーマンスも手掛けています。
宮本和子
カルメン・ヘレラ(1915-)は、ハバナ生まれ。渡米してニューヨークで抽象表現主義のアーティストたちと交流し、アメリカにおける幾何学抽象表現の先駆者のひとりになりました。戦後はパリに移住、1960年代からは絵画の他、抽象に向かう建築の彫刻シリーズを制作しています。
カルメン・ヘレラ
センガ・ネングディ(1943-)は、シカゴ生まれ。彫刻、パフォーマンス、ダンスを融合した作品を制作しています。具体美術協会について学ぶため早稲田大学に留学した経験があり、日本の歌舞伎や舞踏も創作に影響を与えています。
センガ・ネングディ
ミリアム・カーン(1949-)は、スイス生まれ。反核などの社会運動から影響を受け、1970年代にアーティストとしての活動を開始。力強い線描の木炭ドローイングや、カラフルな油彩は、差別、暴力、戦争、そしてユダヤ人女性である自身のアイデンティティとも深く関わっています。
ミリアム・カーン
ベアトリス・ゴンザレス(1932-)は、コロンビア生まれ。1960年代から活動を始め、西洋美術史と地元の新聞からイメージを引用して作品を制作。支持体にカーテンや家具、壁紙などの日用品を用いているのも特徴的で、ポップ・アートとの距離の近さも感じられます。
ベアトリス・ゴンザレス
アルピタ・シン(1937-)は、インド生まれ。イギリスからの独立間もない1950年代に美術を学び、作品を発表。広告看板やテレビ、新聞などから得られる世界の断片をモチーフに、抽象と具象、絵画的イメージと数字や文字が渾然一体となった作品で活躍中です。
アルピタ・シン
三島喜美代(1932-)は、大阪生まれ。1950年代後半から実験的な作品で注目を集め、1973年以降はセラミック(陶)にシルクスクリーンで印刷を施す立体作品を制作しています。現在も精力的に活動を続けており、国内外での評価が高まっています。
三島喜美代
16名のベテランアーティストたち。出身は世界14カ国、現在の活動拠点もさまざまという事もあり、実に多彩な表現です。作品だけ見ていくと、むしろ全員が女性アーティストであるという事のほうが、意外に感じるほどです。
改修工事のため約3カ月間休館していた森美術館は、本展で再開。2階のエントランスはホワイト基調となり、明るいイメージになりました。コロナ禍での休館が残念ですが、会期は長いので、再開後を楽しみにしていただければと思います。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年4月21日 ]