建築の内外設計から装飾、家具まで、アール・デコ様式を体現している旧朝香宮邸(美術館本館)。年に一度の建物公開展では、オリジナルの家具を使った再現展示など、当時の雰囲気が味わえます。
受付を通り大広間に入ると、保護のためのカーペットの一部が取り払われ、元々の床を見ることができました。
朝香宮邸は、宮内省内匠寮によって設計管理されました。その一方で、アール・デコの本場で活躍していたフランスのアンリ・ラパンに、7部屋もの内装デザインを発注し、資材の輸入までしています。床の寄木模様は部屋によっても異なり、内匠寮の技術力と日本人としてのプライドが垣間見えるような気がしました。

大広間(床部分)
また、建物公開展では毎年テーマが設けられていますが、今年のテーマは「色彩」。
これまでは意匠に目がいき、次室(つぎのま)でも香水塔だけを見てしまっていました。今回のテーマのお陰で、黒い柱がコンクリートに漆塗りだと初めて知りました。

次室
続く大客室、大食堂はラパンの壁画やルネ・ラリックのシャンデリアはもちろん、細部のデザインまで見所満載です。あえて全体を俯瞰すると、家具の色使いも内装に合わせてカラーコーディネートされた空間だったのだと気づきました。

大客室
来客時の会食に用いられた大食堂では、テーブルコーディネートが再現展示されていました。壁の暖色部分と、アール・デコらしさ漂うメタリックカラーの対比が印象的です。

大食堂
大広間から二階へと続く第一階段。
一階から踊り場までが、特に華やかです。反対に、ラパンがデザインした大広間に入ったとき、初見で見える側の階段壁はシンプルです。ここにも、設計した内匠寮の気概と配慮を感じました。
白黒茶の3色の大理石とブロンズ、ガラスの取り合わせと色味がモダンです。

第一階段
二階はご家族のプライベートエリアで、その殆どが内匠寮の設計です。各自の寝室や居間の壁紙は、好みに合わせてスイスのメーカーの見本カタログから選ばれたそうです。
落ち着いた色味が多い中、ひときわ鮮やかだったのが妃殿下寝室でした。今回の展示のために、一面だけ壁紙が再現されていました。

妃殿下寝室
ラパンが担当した殿下居間の壁紙、カーテンはフランスのエドゥアール・ベネディクトゥスがデザインしたものが復原されています。

殿下居間
この他、新館ギャラリーⅠでは、1925年パリで開催されたアール・デコ博の関連資料などが展示されています。
アール・デコ博では、ラパンがセーヴル製陶所パヴィリオンのデザインを一部担当しました。セーヴル製陶所は、ラパンが芸術顧問を務め、朝香宮邸の香水塔が製作されている縁もあります。
そのパヴィリオン入口に展示されていたのが、一対の青い壺でした。オリジナル(個人蔵)と同シリーズの青い壺(美術館所蔵)が、時代を超えて私たちを迎え入れてくれました。

ギャラリーⅠ入口風景
企画展開催時には、作品保護のためカーテンが閉められていることが殆どで、美術館然とした顔をしている朝香宮邸。建物公開展では陽光が射し、生き生きとした表情を魅せてくれました。
[ 取材・撮影・文:新井幸代 / 2021年4月23日 ]
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