2020年の年末にコロナ禍でイギリスが最高度のロックダウンに入り、ライアン・ガンダーはスタジオでの制作活動が不可能になりました。さらに輸送も予定通りに動かなくなり、当初予定されていたガンダーの個展の開催は困難になりました。
その状況を受けたガンダーは1月3日に、オペラシティの地権者の1人である故寺田小太郎氏(1927-2018)のプライベート・アイ・コレクションのキュレーションを提案しました。こうして「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」として実現しました。この展覧会は東京オペラシティアートギャラリーで6月20日まで開催されています。

展覧会会場の入口
ガンダーは、2017年に国立国際美術館のでキュレーション実績を持っています。また、東京オペラシティアートギャラリーの寺田コレクションというのは、寺田小太郎氏の寄贈によるプライベート・アイ・コレクションです。ガンダーにとってこのコレクションは、これまで見たこともない日本人のコレクションですが、寺田氏とガンダーはよく似た点を持っていました。それは、日常見過ごすような視点を別の角度から捉え、想像力を持って喚起させ驚きを与えてくれる点です。
寺田氏の収集テーマのひとつ「ブラック&ホワイト」を展示した4階では、西洋の貴族の邸宅の様に壁面の上下左右びっしりと作品が並べられたサロン・スタイルをとっています。

4階「色を想像する」作品の壁
絵の対面の壁からはキャプションを探すことができます。絵と情報が、潔く区別されていました。

4階「色を想像する」キャプションの壁
寺田氏は白黒映画がカラー映画へ変わった時代の人です。初めてカラー映画を見た時に寺田氏はがっかりしたそうです。カラーになり、より豊かになるのではなく、白黒だから想像力が掻き立てられて豊かだったと気づいた寺田氏は、「ブラック&ホワイト」をテーマの1つとして収集を開始しました。
寺田氏へのオマージュとして、ガンダーはこの「ブラック&ホワイト」を構成しました。

「ブラック&ホワイト」の一部分
3階は入口からすでに薄暗く、懐中電灯を手にすると探検気分が昂ます。

3階展示室の入口
3階は5章8室の全ての展示室の照明は薄明かりです。自分で絵に光を当てて見ないと、暗くて絵を見ることは出来ません。天井からの微かな明かりで展示室の構造と展示された107作品の存在がわかります。

3階「ストーリーはいつも不完全......」
3階の第1章のテーマは「探索」です。
普通の展覧会では、明るい部屋で完璧にライトアップされた状態で作品を観ることができますが、この展覧会では自分で作品へ光を当ててみる必要があります。

3階、第1章
第2章のテーマは「注視」です。 懐中電灯の明かりを色々な方向から当てる事で、普通の展覧会ではなかなか見ることができないような筆致まで見ることが出来ました。

3階、第2章
第3章のテーマは「視点」です。 懐中電灯の明かりで彩色の下の木目が透けて見え、創作中のアーティストが目にしていたものが見えた気持ちになりました。普段見過ごしがちな別の角度からの鑑賞で、多くの発見が楽しめました。

3階、第3章
第4章のテーマは「パノラマ」です。 自分の懐中電灯の明かりだけでは全体を見渡せません。大きな作品を部分的に見て行くと、きらめく箇所があり、陰翳礼賛の美しさを感じました。

3階、第4章
第5章のテーマは「ヴィジョン」です。 暗がりの中で周囲の目も気にせず鑑賞に夢中になった頃に、自分の後ろ姿に気付かされるようなユーモアに出くわし、笑みがこぼれました。

3階、第5章
この展覧会は普通の目で見る展覧会よりも自覚して鑑賞でき、好奇心がどんどん膨らみました。革新的で、記憶に強く残る展覧会でした。

オペラシティB1Fのサンクンガーデン
東京オペラシティの地権者である寺田氏ですが、庭園設計や剪定のディレクションのお仕事もされていました。オペラシティの植物は、寺田氏が種類を選び、剪定にも植物らしく伸びることができるように刈り込みすぎない配慮がされているそうです。オペラシティの新緑からも寺田氏の魅力を感じました。
[ 取材・撮影・文:法乙 / 2021年4月16日 ]
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