展示風景《わたしの草地に分け入って》
スイスを拠点に国際的に活躍する現代アーティスト、ピピロッティ・リストの色彩豊かな映像と音楽が溶け合ったヴィデオ・インスタレーションは、身体、女性としてのアイデンティティ、自然、エコロジーをテーマとし、世代、国や性別を越えて愛され続けています。
展示風景《わたしの草地に分け入って》
国内の美術館では13年ぶりとなる大規模個展「ピピロッティ・リスト Your Eye Is My Island —あなたの眼はわたしの島—」が京都国立近代美術館で始まりました。本展では初期から最新作までの約40点を通し、約30年に渡る作家活動の全貌を紹介しています。

展示風景 《永遠は終わった、永遠はあらゆる場所に》
展示室入口で、早速テンションが上がります。というのも、本展では会場入り口で靴を脱がなければならないからです。カーテンで仕切られた薄暗い会場を、絨毯の優しい感触と共に進んでいきます。

展示風景
天井に雲のような形が現われました。《4階から穏やかさへ向かって》です。この作品は川の中にカメラを潜らせて撮影されたもの。泥、藻、生物が漂い、水の中に差し込む光が投影されています。
会場に置かれたベッドに横たわりながら鑑賞します。全身に、音楽と映像という水が浸みこんでいくような心地よさを感じます。

展示風景 《4階から穏やかさへ向かって》

《印象を消化する》

展示風景
本展最後の大きな展示室は、美術館にいることを忘れてしまうほどです。リストは居住空間を再現したような展示を「アパートメント・インスタレーション」と呼び、実際に配置されたテーブルやソファなどの家具にイメージを投影します。歩き回る鑑賞者にその映像が重なるため、目の前の風景が変化し続ける面白さがあります。
作品を見ているのではなく、作品の中にいるといえます。また今回は、京都国立近代美術館コレクションである日系アメリカ人のタカエズ・トシコの陶芸作品と十五代樂吉左衛門の茶碗に、映像が重ねられ展示されています。照明で赤く染まる樂茶碗。いつもと勝手が異なり驚いているかもしれません。

展示風景

展示風景 《タカエズ・トシコに捧ぐダブル・ビッグ・リスペクト》
インタビューでリストは「この展覧会では寝転んだり、ソファに座ったりと好きな姿勢で各々が自由に楽しんでほしい。四角い箱(ディスプレイ)から映し出されるものに捉われず、映像体験をしてもらいたい。」と話します。
「映画館のように、同じ内容を同じ方向を向いて鑑賞するのではなく、そこに居合わせた鑑賞者同士、お互いが舞台上の俳優のように見えるような空間も体感してほしい。」

展示風景 《アポロマートの床》
ピピロッティと京都国立近代美術館が作り上げた世界にどっぷり浸ってください。新しい美術館の魅力を全身で感じてください。そしてそれらはあなたの記憶にしっかりと刻まれることでしょう。 おっと、靴袋と靴下をお忘れなく!

ヴィジュアルとテキストに分かれた2冊1組の図録もおすすめ。
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2021年4月5日 ]
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