※4/25~5/31は臨時休館
東京都とトーキョーアーツアンドスペースによる中堅アーティストを対象とした現代美術の賞「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)」の第1回受賞者は風間サチコさんと下道基行さんのお2人でした。この受賞記念展では、お2人の初期作品から最新の作品が展示されています。
下道基行
下道基行さんの展示室では、これまでのプロジェクトのいくつかを見ることができます。
まず目に入ってきたのは、香川県直島での瀬戸内についての資料館の展示風景の再現です。様々な人々と共に調べて収集した情報が、地元の方や観光客にも公開され、磁場として活用されています。
《瀬戸内「 」資料館》 2019~
下道さんは国内外の中学校を訪れて特別授業を行い、そして14歳の生徒たちは日常にある境界線について文を書きました。大人と子どもの狭間の14歳の言葉が地元の新聞に掲載されたものをまとめて見ることができます。
《14歳と世界と境》 2013~
中国・韓国などから沖縄の浜辺に流れ着いたガラス瓶を集め、琉球ガラス職人の屋我平尋さんと協働して蘇らせた再生ガラスが展示されています。
《漂泊之碑》 2014~ 協力:屋我平尋
第58回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展 日本館(2019)に展示された「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」の「津波石」の映像作品を見ることができます。八重山-宮古諸島を400~500年周期で襲う津波は、海底から陸へ大きな岩を運びました。その岩の経年による変化について、様々な観点からの価値づけを見せてくれます。
《新しい石器》は、太古から石を道具として様々な方法で扱う人間の能力に注目し、本の付録として石が挟まれています。
《津波石》2015~ 映像13点中9点、《新しい石器》2015,2017
風間サチコ
モノクロの濃淡で表現する木版画アーティストの風間サチコさんは、闇の歴史や先行き不安な未来や現代社会への批判を、コミカルなフィクションとして描き出しています。
多くの新作が展示された黒い部屋は、《ツァウバーベルク》を中心として取り囲むように《肺の森》シリーズが配置されて、モノクロの版画にこれほど見入ったことは無いほど眺め入りました。
《ツァウバーベルク》2021
左から《ツァウバーベルク》2021、《肺の森 - 原始の鉱脈》2021、《肺の森 - Xmas truce》2021、《肺の森 - LINDENBAUM》2021
《セメントセメタリー》は、フロッタージュ技法で石灰鉱山が徐々に「墓標」へと変化する経過が描かれています。
手前壁面《セメントセメタリー》2020 9点
自然を支配して人間のために作り上げて行く合理性を否定した《クロべゴルト》シリーズは、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』4部作のうちの序夜「ラインの黄金(ラインゴルト)」での神々のエゴと支配欲を、ここでは人間が自然を支配する様子を「ダム」を通して描き出されていました。
《クロべゴルト》2019 6点
森美術館や東京都現代美術館に所蔵されているいくつかの大作をまとめて見ることができます。《人外交差点》は弘兼憲史さんの漫画「人間交差点」からの引用で、近未来の渋谷のスクランブル交差点での監視社会が描かれています。
左から《噫!怒濤の閉塞艦》2012 東京都現代美術館蔵、《獄門核分裂235》2012 森美術館藏、《人外交差点》2013《
《風雲13号地》の戦艦大和には、埋立地13号地のお台場を象徴する建物が積み重なっています。江戸時代以来、設えられたが使用されなかった大砲や要塞、公共事業の建物が戦艦大和に載せられ、虚しく東京湾を漂流しています。
左から《決關!硫黄島(近代五種磨参上)》2017 個人蔵(東京都現代美術館寄託)、《風雲13号地》2005 文化庁蔵(東京都現代美術館寄託)
初期作品のコーナー
風間サチコさんの《存在の同じ家》は、折込チラシのモデルハウスの爽やかな光景を、バブル崩壊後の世紀末感が漂う怠い空気感へと移し替えたシリーズです。折込チラシの中のマイホームの夢を目標に生きるサラリーマンの明るい未来と、先行き不安な未来が織り交ざっています。
《存在の同じ家》1997 15点
下道基行さんの《戦争のかたち》は、国内に残された砲台や戦闘機の格納庫などを見つけて訪ね、記録したものです。日常生活の中で風景に溶け込み「かたち」として残っている戦争時代のものが、機能を失った後も別の機能を担い、記憶として残されている状況を記録されています。
《戦争のかたち》2001-2005 10点
日常生活で私がなんとなく気付いているけどあえてスルーしていることがたくさんあります。風間さんと下道さんはそれを徹底的なリサーチを行い、可視化してくれていました。
[ 取材・撮影・文:法乙 / 2020年3月19日 ]
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