越後や米沢のイメージが強い上杉家ですが、実は佐野美術館がある伊豆もゆかりが深い場所。鎌倉時代に上杉憲房が伊豆の奈古屋(現 伊豆の国市奈古谷)の地頭職になった事を機に、上杉家は関東管領を歴任する名門へと成長していきました。
戦国時代は、長い太刀を磨り上げた(切り縮めて刀身を短くする事)武将が多い中、謙信はじめ上杉家の刀剣は、磨り上げてないものが多く残っています。また、謙信の愛刀《太刀 銘 豊後国行平作》の拵の金具には、秋草の繊細な毛彫りが施され、謙信の人柄が感じられます。
《御堂近火手配之図》は火事が起きた時、謙信の遺骸を収めた御堂の避難計画をまとめた文書。本壇の三方には刀を安置していたことが記載されており、謙信と刀剣の切り離せない関係を感じさせます。
上杉謙信といえば、毘沙門天。謙信が出陣の際に祈った泥足毘沙門天や、細かな細工がかわいらしい念持仏など、仏教関係の資料も多く展示されています。
プロローグ「上杉家名刀の成り立ち」、第一章「謙信時代の名刀」謙信の跡を継いだ景勝も、名刀を数多く集めました。景勝が書いたとされる《上杉景勝腰物目録》は、「上杉三十五腰」のもとになったと言われる文書。ここには「ひめつる一もんし」「からかしわ」など、今回展示されている刀剣の名前も見ることができます。
景勝の集めた刀剣は、秀吉の好みを受けて、豪奢で拵も立派です。《名物 大柿正宗》は徳川家より拝領したものです。
上杉家は関ヶ原で敗れた後、国替え、減封と危機に陥りますが、刀剣は大切に受け継がれました。近代に作られた刀剣台帳や、江戸時代の砥ぎ直しの記録が残る保管用の白木の鞘などからは、誉高い家宝への想いを感じることができます。
第二章「景勝時代の名刀」、第三章「歴代藩主の刀剣」、第四章「大名家の刀剣管理」、エピローグ「未来へ」この展覧会では、オンラインゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」に登場する、上杉家ゆかりの「五虎退」と「謙信景光」が展示されており、
三島市と刀剣乱舞がコラボを実施中。市内を巡るスタンプラリーや記念グッズの販売などが行われていますよ。
今回特別展示されている《名物 不動行光》は、精緻な不動明王の彫り物が特徴的な織田信長ゆかりと伝わる短刀で、なんと一般公開は40年ぶり。刀剣女子はもちろん、往年の刀剣ファンも見逃せない機会となっています。
人がお出迎え。国宝《短刀 銘 備州長船住景光 元亨三年三月日》埼玉県立歴史と民俗の博物館、重要美術品《短刀 銘 吉光(五虎退) 黒漆小サ刀拵》個人蔵、《短刀 銘 行光 名物 不動行光》
上杉家の歴史を感じる名刀揃いで見ごたえある展覧会は、
米沢市上杉博物館、
埼玉県立歴史と民俗の博物館を巡回し、
佐野美術館が最後の地となります。三島までは東京から新幹線で約1時間程度。ぜひ足を延ばしてみてください。
[ 取材・撮影・文:川田千沙/ 2018年1月10日 ]■上杉家の名刀と三十五腰 に関するツイート