国立科学博物館で久しぶりの特別展が始まりました。陸上で他の動物を捕まえて食べるハンター(捕食者)に焦点をあて、その生態や技術などを紹介しながら、地球環境のこれからを考えていきます。
会場入口
展覧会は4章構成で、第1章は「太古のハンター」です。陸上での暮らしは約4億年前から。最初に陸に上がった節足動物の仲間は、地上で捕食活動をはじめました。
「太古のハンター」というと、すぐにティラノサウルスなどの大型肉食恐竜が思い浮かびますが、今回はワニ類に着目。会場の中央には、本展のために制作された中生代白亜紀の巨大ワニ「デイノスクス」の生体復元模型が鎮座しています。全長12メートルで、ティラノサウルス科の恐竜も捕食していたとされる強力なハンターです。
「デイノスクス」生体復元模型
約6600万年前に恐竜が絶滅すると、哺乳類の時代になります。現在の哺乳類のハンターは、ほぼ食肉目。過去には肉歯目のヒアエノドンなど別のグループもいましたが、生存競争に負けて地球上から姿を消してしまいました。
奥のヒアエノドンは肉歯目、手間のディニクティスは食肉目
第2章は「大地に生きるハンター」。前章の進化を踏まえ、現在みられるハンターを生息域別に紹介していきます。
「水辺のハンター」には、ワニがずらり。ワニは約2億3000万年前に出現して以来、現生までほとんど形を変えずに水辺の生態系に君臨し続けているハンターです。
「水辺のハンター」
「森・密林のハンター」には、お馴染みの哺乳類が。哺乳類は恐竜の時代には昆虫食でしたが、進化の過程で狩りをする食肉目へと進んでいきました。
森の中は、立体的な世界です。林床を歩きまわり、ジャンプし、木に登り、さらには飛翔してと、ハンターたちは三次元の世界を動きまわります。
「森・密林のハンター」
「暗闇のハンター」といえばフクロウ、これだけの種類のフクロウが一挙に並ぶ機会は滅多にありません。フクロウは大きな目が特徴的ですが、暗闇で獲物を探すために、優れた目を持つようになりました。
フクロウは鳥類ですが、同じ暗闇で活躍するコウモリは哺乳類です。こちらは目ではなく、口から超音波を出して情報を得ています。
「暗闇のハンター」 上段がフクロウ、下段手前がコウモリ
「草原のハンター」に並ぶのは、ネコの仲間たち。ライオンやヒョウなど、典型的な肉食動物のイメージはこれでしょう。
ハイエナもイヌに似ていますが、ネコの仲間です。ハイエナというと屍肉食と思われがちですが、実はハイエナ自身も立派なハンター。なんと噛む力はライオンより強く、骨を砕いて骨髄まで食べてしまいます。
「草原のハンター」 上段一番手前がハイエナ
砂漠や山岳地帯の岩場などの荒野は、寒暖差が大きく過酷な場所。ハンターたちは感覚を駆使して獲物を探します。
イヌ科のフェネックやオオミミギツネは、大きな耳が特徴。砂中に潜む昆虫や爬虫類が出すわずかな音を聞き取って、ハンティングを成功させます。
「荒野のハンター」 左がオオミミギツネ、右がフェネック
第3章は「ハンティングの技術」。前の章では体力勝負のハンティングを紹介しましたが、ここではやや変化球のハンターたちに光をあてました。
「偏食なハンター」には、アリクイなど。ヘビの中には卵しか食べないヘビ、爬虫類しか食べないヘビなど、偏食家が数多く見られます。血を吸って生きる、カ(蚊)も偏食家といえます。
「偏食なハンター」 左下はミミセンザンコウ、右上はオオアリクイ
「毒使いのハンター」では、珍しいテクニックを持つ「エメラルドゴキブリバチ」をご紹介。ゴキブリに毒を打ち込み、半死半生のまま巣穴まで運ばせ、ゴキブリの身体を使って繁殖するという恐ろしい技を持っています。
エメラルドゴキブリバチ
カマキリは、肉食の昆虫を代表する存在でしょう。カマのような前脚で獲物を捉えるのが特徴といえますが、前脚がカマ状になった昆虫は、ミズカマキリ、カマキリモドキ、カマバエ、カマバチなど、カマキリ以外にも多数います。
それぞれが独立したまま前脚がカマ状に進化しており、このような現象を「収斂(しゅうれん)進化」といいます。
「前脚がカマのような形の生き物」
展覧会のまとめにあたる第4章は「フォーエバー・大地のハンター」。ここまでに登場したハンターたちは、基本的には食べるための活動です。他とは異なるヒトは、残念なハンターといえます。
動物をペットとして飼育するのは悪いことではありませんが、最後まで面倒をみるのは飼い主の責務でしょう。捨てられたアライグマは凶暴なハンターとなり、各地の生態系を破壊していきました。
ニホンカワウソも毛皮などを求めた乱獲の末に絶滅しました
ただ、人間は生態系の頂点に君臨する最強のハンター、と思ったら大間違いです。生態が謎に包まれている「芽殖孤虫」は、感染した人がほぼ死んでしまうという恐ろしい寄生虫。まだまだ未知の脅威は数多く存在します。
会場の最後に展示されているのが、ニホンオオカミの骨格標本と、ニホンジカの剥製。ニホンジカを獲物としていたニホンオオカミが絶滅してしまった事で、ニホンジカが急速に増加し、生態系や農業などに深刻な影響を与えているのは周知の事実です。
ニホンオオカミの骨格標本と、ニホンジカの剥製
いかにも科博らしい展覧会で、大人も子どもも楽しめる企画です。人気の動物版青春漫画「BEASTARS」ともコラボしており、会場各所でキャラクターが展示の見どころを解説してくれています。
なお、入場はオンラインによる事前予約(日時指定)が必要ですので、ご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年3月8日 ]