日本の自然や風物を叙情豊かに描いた川合玉堂(1873-1957)の画業たどる展覧会が開催中です。
玉堂と交流のあった山種美術館の創立者・山﨑種二。山種美術館所蔵作品を中心に初期作品や名品、同時期に活躍した作家も紹介していきます。
会場入口
本展では、撮影が可能な作品も展示をしています。そのひとつ、《春風春水》は玉堂が好んだモティーフである“渡し舟”が登場。山桜が散っている山間部や水面が揺れている様子は、タイトル通りあたたかな春の風を感じさせる作品です。
(左から)川合玉堂《春渓遊猿》 昭和15年頃 / 《春風春水》 昭和15年
玉堂が57歳の時に制作した《石楠花》は、輪郭線を用いて力強く色鮮やかに描かれているのが特徴。奥行きを出すため、薄く描かれた背後にある残雪の連峰は、浮世絵や狩野派の古典的な作例を想起させます。この《石楠花》は、1FのCafe椿で和菓子としても味わうことができます。
川合玉堂《石楠花》 明和5年
今回の展覧会で特別に展示されたのが、「ローマ日本美術展覧会」に出品された《松籟涛声》。1930年に日本の美を世界に紹介する一大プロジェクトとして開催されたもので、横山大観を団長に80名の日本画家の作品が展示されました。
狩野派の漢画的描写で描かれた近景の松樹と、遠くには浜辺で人々が舟を入水させる臨場感のある様子が表現されています。
会場風景 (右端)川合玉堂《松籟涛声》昭和4年 牧暢子蔵
日清戦争の頃から第二次世界大戦下にかけて多く登場したのは“虎”です。武運長久と無事帰還を願って「千里往還」といわれる虎を描き、時には面識のない者に贈ることもありました。
(左から)川合玉堂《荒海》 昭和19年 / 川合玉堂《虎》 昭和18~20年頃 / 川合玉堂《山雨一過》 昭和18年
玉堂は身近なものにも目を向けていきます。デビュー作の制作時に、子猿を飼い写生したと言われていますが、それがきっかけとなり、うさぎや猿などの動物も描くようになります。優れた観察力や描写力で軽妙な筆づかい感じさせます。
(左から)川合玉堂《兎》 昭和13年頃 / 川合玉堂《鴨》 昭和24年頃
《松上双鶴》は、山崎種二の長女の結婚の際に祝いとして贈ったもの。松の上に複数の鶴を描く「松上群鶴」は伝統的な吉祥の画材のひとつで、立ち姿が新郎、羽づくろいをしている鶴を新婦に見立てています。
川合玉堂《松上双鶴》 昭和17年
同時代の画家たちとも深い交流があった玉堂。種二の希望により川合玉堂・横山大観・川端龍子の3名による合同展「松竹梅展」の開催も実現します。玉堂は、第1回展では竹、第3回では松を担当しました。
会場風景 「松竹梅展」
玉堂の穏やかさは、作品のみならず、多くの人に慕われていたことからも感じられます。「川合玉堂」展は過去にも開催がありましたが、本展では、玉堂の交流関係を追いながら作品を楽しむことができる展覧会になっています。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2021年2月9日 ]