若手芸術家が海外の大学や関係機関等で行う研修を、文化庁が支援する「新進芸術家海外研修制度(旧・芸術家在外研修)」。研修の成果を発表する「DOMANI・明日展」は本展で23回目、この項では2013年の15回展から紹介しています(15th 2013、17th 2015、18th 2016、19th 2017、20th 2018、21th 2019、22th 2020)。

会場入口
まず会場の冒頭には「新型コロナ禍タイムライン 2020」のパネルなどを展示。昨年夏から秋にかけてオンライン上で開催された「DOMANI・明日展plus online 2020」についても紹介されています。

「新型コロナ禍タイムライン 2020」
続いて、いつものように作家ごとの紹介。昨年の展覧会はテーマを優先して、多世代の作家による特別なグループ展として開催されましたが、今回は原点に立ち返り、すべて文化庁新進芸術家海外研修制度の経験者から、9組10作家が選ばれました。ここでは4名をご紹介しましよう。
髙木大地(1982-)は2018年度にオランダ・ハールレムに滞在。本展では滞在後に制作した作品を中心に構成しており「大きな螺旋階段をゆっくり登っているように、いろいろ試しながら、自分の本質的なものに近づいている状態」としています。

髙木大地
本展のメインビジュアルは、大田黒衣美(1980-)の作品。アトリエに遊びに来た猫の背中にチューイングガムの板で作ったレリーフが乗っている、ユニークな写真作品です。
2018年度にドイツ・ベルリンに滞在。ベルリンでの滞在中は、コンパニオンアニマルと人間との関係性に着目した作品を制作していました。新しい試みとして、セラミックの作品にも取り組んでいます。

大田黒衣美
袴田京太朗(1963-)は、1994年度にアメリカ・フィラデルフィアに滞在。彫刻の作品で、日常や社会について問いかけるような表現で知られます。
《軍神 -複製》は、東郷平八郎の立像をもとにした軍人像を横倒しにした作品。本来は権威的な像が、日常的なモノに近づいていきます。別の作品《アラニス》では、カーテンの中に頭を入れている涅槃像。そもそも寝ている涅槃像と、横倒しになった軍人像が同じ空間に存在する事は、今回の大きなテーマです。

袴田京太朗
新里明士(1977-)は、白磁の表面に小さな穴で文様をつくる「蛍手(ほたるで)」の技法で注目を集めている陶芸家。このコーナーでも、昨年開催された「和巧絶佳 令和時代の超工芸」(パナソニック汐留美術館)でご紹介しました。
今回は、制作途中で割れてしまった作品を展示。割れた傷が展示台の床に光の筋として現れるさまは、独特の緊張感を生み出しています。2011年度にアメリカ・ボストンに滞在しました。

新里明士
毎年恒例の展覧会ですが、本展で紹介された後に大きく飛躍していく現代美術家も多いので現代アート好きは必見です。公式サイトには全作家のインタビュー映像も紹介されています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年1月29日 ]