「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」として、ユネスコ無形文化遺産への登録が決定となっている、日本の伝統建築。古代から現代までの日本を代表する建築の模型や資料を一堂に公開する展覧会が、東京国立博物館 表慶館など3館で開催中です。

「日本のたてもの ― 自然素材を活かす伝統の技と知恵」会場
3つの会場で開催されている本展。東京国立博物館では「古代から近世、日本建築の成り立ち」が会場テーマです。
会場の表慶館に入ると、多重塔の模型から。塔は、サンスクリット語の「ストゥーパ」を音訳した「卒塔婆」が語源です。仏教とともに、朝鮮半島から日本に入ってきました。
日本の多重塔は、その多くが三重塔か五重塔です。外観は似ていますが、内部の構造は時代とともに進化しています。

(左から)《一乗寺三重塔 1/10模型》 / 《法隆寺五重塔 1/10模型》
仏教とともに大陸の建築様式が日本にもたらされ、各地に寺が建立されました。
礎石の上に柱を立て、屋根は瓦、木部を彩色し、要所を飾金具で装飾するのが大陸のスタイルです。大陸文化を具現化した7世紀の寺院跡は、200近く見つかっています。
平城京の時代になると、南都六宗寺院が建立されました。唐招提寺金堂など、唐の様式をもとにした日本の寺院建築様式が確立します。

《唐招提寺金堂 1/10模型》
鎌倉時代には和様が広まる一方で、新たに宋から禅宗が到来。興福寺は和様で再建されましたが、東大寺は南宋の様式が用いられ“大仏様”とされました。
禅宗は新興勢力である武家の信仰を集め、全国に禅宗寺院が拡大していきます。伝統的な和様仏堂も宋の様式を受けて、装飾的細部を備えるとともに、構造面も強化。屋根裏の構造も変わったことから、広い礼拝空間を持つ、奥行きが深い建築が可能になりました。

《長寿寺本堂 1/10模型》
続いて神社の建築。切妻造は大棟(おおむね:屋根の一番高い部分)から両側に屋根面が流れる、オーソドックスな屋根のかたちです。出入口が平面にある「平入」は伊勢神宮、妻面にある「妻入」は出雲大社や住吉大社などで、いずれも古代の大社に伝えられています。
大嘗宮は、天皇が皇位を継承する際に行われる大嘗祭でつかわれる建物です。中心的な建物は、間取りなどの面において住吉大社本殿と類似しています。

《春日大社本社本殿 1/10模型》
民家の古い遺構は少なく、その多くは17世紀以降のものですが、もちろん遡れば古墳時代には高床住居が、さらに竪穴住居は縄文時代の発掘遺構で確認できます。
著名な登呂遺跡は、昭和18年に発見されました。水田跡と住居跡と倉庫跡が一体になった弥生時代の遺跡です。

《登呂遺跡復元住居 模型》
畳が敷かれ、襖障子などで空間を仕切る書院造。主要な部屋には床(とこ)や違棚など座敷飾と呼ばれる造作があります。そのスタイルは、近代の和風住宅に継承されています。
茶の湯を行うための専用施設が茶室です。四畳半より狭い小建築で、炉を切り、床を備え、極小の出入口を設けて求道的な空間がつくられました。

(右手前)《慈照寺東求堂 1/10模型》 / (左奥)《如庵 1/5模型》
支配層以外の一般庶民の住居である民家。農家は気候や入手できる材料、生業などで独特の形態を生みました。神奈川県秦野市にあった旧北村家住宅は、貞享4年(1687)の建築。古い農家建築の典型といえる特徴を残しています。
町屋は道路沿いが比較的狭く、奥行き方向に長い敷地を持つ形態が一般的。都市住宅としての合理性は、全国どこでも見られます。

(手前)《旧北村家住宅 1/10模型》 / (奥)《今西家住宅 1/10模型》
門は、敷地の領域に設置された、出入り口。正面の柱間と扉口の数により上下2層の屋根がある二重門、2階立てで屋根は上層のみの楼門など、多様な形式があり、その規模と形式が、門の格式を表します。

《東福寺三門 1/10模型》
中世末期、戦国時代に城郭は大きく発展します。戦闘の変化に対応し、防御力を強化。また権力を象徴するため意匠も重視され、単なる物見塔だった櫓は、華麗な天守に変容していきます。
江戸時代になると徳川幕府が新築の築城を禁じたため、城の発展には終止符がうたれます。

《松本城天守 1/20模型》
展覧会は平成館に続き、ここでは首里城が紹介されています。
昨年10月の火災も記憶に新しい、首里城正殿。ここは何度も焼失と再建が繰り返されており、太平洋戦争の沖縄戦でも大きな被害を受けました。日本の城郭建築とは異なる中国式の殿堂です。

《首里城正殿 1/10模型》
自然素材を活かすさまざまな技術が結集した日本の伝統建築ですが、伝承者の養成や技能の錬磨、原材料や用具の確保など、その維持が困難とされる問題が多くあるのも事実です。会場2階では、茅葺、左官、錺金具など木造建築を受け継ぐための伝統技術や工匠の技もパネルで紹介されています。
なお、他の会場とテーマ・会期は、国立科学博物館が「近代の日本、様式と技術の多様化」(12/8~1/11)、国立近現代建築資料館が「工匠と近代化 ― 大工技術の継承と展開 ―」(12/10~2/21)です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年12月23日 ]