古代エジプト人が信じた天地創造と終焉の物語を約130点の作品・資料で紹介する企画展が、東京都江戸東京博物館ではじまりました。

会場前のフォトスポット
展覧会には、世界有数のエジプトコレクションを誇るベルリンのエジプト博物館から名品が来日。3章構成で展開されます。
会場は第1章に先立って、プロローグ「すべては海から始まった」から。白一色の導入部に、期待感が高まります。

プロローグ「すべては海から始まった」
古代エジプトの重要な宗教都市であるヘリオポリスの神話では、世界の始まりである原初の海・ヌンから、最初の神・アトゥムが誕生したとされています。

《腹ばいになる山犬の姿をしたアヌビス神像》新王国時代 前1550~前1070年頃
第1章は「天地創造と神々の世界」。ヘリオポリスではアトゥム神から8柱の神々が生まれ、あわせて9柱神が神話の中心です。9柱神のひとつであるオシリスは植物の神で、顔が緑色。再生のシンボルでもあります。
また古代エジプトでは、人間の力を凌駕するものは、しばしば神とみなされました。空を飛べる鳥、獰猛なワニやライオン、猛毒を持つコブラなども、神として造形物に表現されています。

(左から)《ホルス神に授乳するイシス神の小像》末期王朝時代・第26王朝 前664~前525年頃 / 《背面にジェド柱を持つオシリス神の小像》末期王朝時代 前664~前525年頃

(手前)《ナイルの神の像》中王国時代・第12王朝 前1976~前1794年頃 / (後ろ2体)《セクメト女神座像》新王国時代・第18王朝、アメンヘテプ3世治世 前1388~前1351年頃

《バステト女神座像》末期王朝時代・第26王朝、ネコ2世治世 前610~前595年頃
第2章は「ファラオと宇宙の秩序」。ヌンに創造神が出現し、混沌とした世界に初めて秩序=マアトがもたらされます。古代エジプトの人々にとってマアトは、生きる上での重要な規範・道徳になります。
宇宙全体も人間社会も、最上位にあるのはマアトの原理です。リーダーであるファラオは、マアトを遂行する最高責任者。異民族の侵入やファラオに対する謀反はマアトを揺るがすもので、「善き神」であるファラオ自身がリーダーシップをとって、マアトを実践する事が求められました。

《ハトシェプスト女王のスフィンクス像(胸像)》新王国時代・第18王朝、ハトシェプスト女王治世 前1479~前1458年頃

《カルナク神殿のアメン神官ホルの方形彫像》第3中間期・第22王朝、オソルコン2世治世 前875~前837年頃 または オソルコン3世治世 前790~前762年頃

《ネフェルトイティ(ネフェルティティ)王妃あるいは王女メリトアテンの頭部》新王国時代・第18王朝・アマルナ時代、アメンヘテプ4世/アクエンアテン王治世 前1351~前1334年頃
第3章は「死後の審判」。古代エジプトの死生観として、太陽の動きに起因する「太陽信仰」と、死ぬとオシリス神になるという「オシリス信仰」がありますが、ともに再生のストーリーです。
古代エジプトでは、考えたり思ったりするのは脳ではなく心臓とされていました。死者の心臓は、マアトを象徴する羽と天秤ばかりにかけられ、釣り合わない場合は、怪物アメミトに食べられてしまいます。

《デモティックの銘文のあるパレメチュシグのミイラ・マスク》ローマ支配時代 後50~後100年頃

《タバケトエンタアシュケトのカノポス容器》第3中間期・第22王朝、タケロト2世治世 前841~前816年頃

《タイレトカプという名の女性の人型棺・内棺》第3中間期末期~末期王朝時代初期・第25~26王朝、前746~前525年頃
エピローグは「オシリスの予言」。ヌンから創出された世界も永遠に続くわけではなく、いつの日か終末が訪れます。
ただ、再び原初の海だけになった時にも、創造神アトゥムと再生神オシリスは生き残るとされました。
再びアトゥムが世界を創る瞬間には、オシリス神が存在している事になります。逆にいえば、秩序ある世界を確実に再生するために、オシリス神の力が必要とされたのでした。

《3匹の魚とロータスを描いた浅鉢》新王国時代・第18王朝 前1450~前1400年頃
会場では古代エジプト神話をオリジナルアニメーションで紹介する演出も。アニメの主役は俳優の荒牧慶彦さんが務めます。
古代エジプトをテーマにした展覧会は人気があり、本展とは別の「ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト」も全国を巡回中。本展は江戸東京博物館を皮切りに京都、静岡、八王子に巡回します。会場と会期はこちらをご覧ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年11月19日 ]