奈良県の3つの地域で、それぞれ3~5 時間ほど歩きながら作品を鑑賞する芸術祭「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」に、行ってきました。
残念ながら週末の2日間だったので、熟慮の末、初日に天川村、2日目は吉野町というコースにしました。
1日目 奈良県 天川村
まず、土曜日は天川村へ。スタート地点にあった一つ目のアート作品は、長い道程を予感させるような木の杖です。持って行って、ゴールで返却できます。
菊池宏子+林敬庸《千本のひげ根》
スタートしてしばらくは、洞川温泉の旅館街です。各所で目にする「陀羅尼助(だらにすけ)丸」は、この地に古くから伝わる胃腸薬です。
洞川温泉旅館街
凧のような作品が、晴天に映えます。
ニシジマアツシ《Sky Fishing - variations Ⅲ》
温泉街を過ぎると、コースは川沿いに。都会では絶対に見られない透明の川に、思わずテンションが上がります。
山上川の透明度は息を飲むほど
コースの各所には、黄色いポストのような「森の中の図書館」があります。
ウェブで暗証番号を確認して、ポストを開けると中に数冊の本が入っている仕組み。本の奥付には、この本を選んだ理由も書かれていました。
「森の中の図書館」
こちらは各コース4カ所にある、詩の作品。QRコードを読み取って、朗読を聴きながら歩いていきます。
oblaat 松田朋春+則武弥 詩人 覚和歌子《distance.2》
小高い山を登った先にあるのが、天川村コースのメインといえる《ダラニスケ研究所》。冒頭でご紹介した「陀羅尼助丸」がテーマにしています。
菊池宏子+林敬庸《ダラニスケ研究室》 入口
修験道の役行者(えんのぎょうじゃ)が作り、最古の和薬ともいわれる陀羅尼助。現在、市販されているものは、とても小さな丸薬を1回に30錠も飲みます。
原材料(オウバクという木の皮)や製造元で異なるパッケージの展示の他、「30錠」をすくう体験など、趣向を凝らした展示でした。
菊池宏子+林敬庸《ダラニスケ研究室》 室内はこんな感じ。
菊池宏子+林敬庸《ダラニスケ研究室》 「陀羅尼助丸」は、すべてデザインが違います。
菊池宏子+林敬庸《ダラニスケ研究室》 展示している「陀羅尼助丸」が売っている場所。窓の向こうの紅葉が見事です。
寄り道をしたので、4時間強の徒歩コースでした。少しだけ動画も撮影したので、ご覧ください。
2日目 奈良県 吉野町
翌日の日曜日は、会期の最終日。吉野町に向かいます。
吉野駅 ここから歩いて15分ほどの場所からスタート
こちらも冒頭は《千本のひげ根》。前日より距離も長いので、どんどん歩いていけば良いのですが…。
菊池宏子+林敬庸《千本のひげ根》
鼻をくすぐる炉端焼の匂いと、ビールの看板。小腹を満たしてから、コースに戻りました。
鮎の塩焼きは500円、卵入りは700円。外のベンチで食べられます。
木の板に文字が流れる作品。プロジェクターで投影しているのではなく、横長のLEDパネルに木目のシートを貼っているようです。
とても雰囲気が良いので、商業施設などでも活躍しそうな気がしました。
谷川俊太郎《あさ》
来る前にSNSで見て気になっていた作品が、こちらです。廃屋の中に、カラフルなガラスの作品が配されています。ここは帰路でも通るので、暗くなってからも楽しみです。
中崎透《色眼鏡で見る風景》
ルート上の金峯山寺は、金峯山修験本宗(修験道)の本山。蔵王堂(本堂)などは、国宝に指定されています。
国宝 金峯山寺 蔵王堂
金峯山寺にあった作品です。
タカホリイ《いのち 脈々と》
少し歩いた先にあった作品。作家さんはサーフィンが好きなのでしょうか。楽しい作品です。
松田大児《海 Gallery》
こちらの円盤状の作品は、投稿した写真が時計のようになるもの。円盤は書き込めるようになっており、会期の最終日なのでご覧のような状態でした。
井口皓太《吉野の時計 ― 瞬間の採集と集積》
絶景の展望台にも作品が。景色を見に来たと思われるライダーさん達も作品を眺めていたのが印象的です。
oblaat 松田朋春+則武弥 詩人 永方佑樹《distance.3》
コースのほぼ中間が、吉野水分(みくまり)神社。雰囲気とマッチした映像作品も良いですが、何よりも神社そのものの雰囲気が素晴らしかったです。
このようなイベントがないと、おそらく知る事がなかった場所に出会える事は、とても有意義な時間の使い方だと思いました。
上野千蔵《水面》
ここからは山の中、立木の割れ目に頭を突っ込む鹿。
木村充伯《森の中へ》
この先の下り坂が、ちょっとデンジャラスでした。結び目があるトラロープは何?と思っていたのですが、足場が悪く、これを持って下りないと、ズルズル滑ってしまいます。
写真だとたいした事なさそうですが、勾配がきつくてロープを持たないと降りられません。
再び金峯山寺に戻った頃は、ちょうど夕刻。照明の作品も点灯しており、その光は遠く大峯山まで届いていました。
蔵王堂ではクロージングのイベントも開催されていました。
齋藤精一《JIKU #006 YOSHINO》
さらに進んで、昼に通った作品へ。案の定、とても良い雰囲気になっていました。
中崎透《色眼鏡で見る風景》
吉野町も動画をまとめました。よろしければご覧ください。
聞けば今回のイベントは、コロナ禍になった後から企画がスタートしたとの事。3カ月程度の準備期間にも関わらず、これほどの芸術祭ができるのには驚きを禁じ得ません。関係各位には深く敬意を表したいと思います。
馴染みが無かった場所を見て、歩いて、知る事ができるのが、地方で行われる芸術祭の醍醐味。天気に恵まれた事もありますが、大満足の2日間でした。
吉野町
天川村のお土産は、もちろんこれ。「陀羅尼助丸」