小さな黒いさかなの『スイミー』、詩人のねずみ『フレデリック』などの絵本で知られる、レオ・レオーニ。日本でも絶大な人気を誇り、このコーナーでもBunkamuraでの展覧会をご紹介した事がありました。
本展会場の板橋区立美術館は、1996年に日本初の「レオ・レオーニ展」を開催し、レオと親しく交流。99年にレオが死去した後に作品の調査・研究を進めたところ、あまり知られていなかった作品や資料が見つかりました。本展はその成果も踏まえ、まさに「だれも知らない」レオ・レオーニの姿に迫っていきます。

会場の板橋区立美術館
展覧会は、80歳を超えたレオが描いた自伝的作品、「黒いテーブル」シリーズの油彩画から始まります。
レオは1910年、オランダ・アムステルダム生まれ。幼少期に進歩的な教育を受け、芸術にも恵まれた環境で育ったレオは、物心つく頃にはアーティストになりたいと思っていました。

1章「旅のはじまり」
20代になったレオは、一時期、イタリアの前衛美術運動「未来派」に参加するも、ファシズムへの傾倒に違和感を感じて運動から離脱。ミラノに渡り、製菓会社モッタの広告宣伝部門に入ります。ここでは「モッタレッロ」というキャラクターをデザインしています。
1936年にはフリーに。モダンな広告で活躍しますが、イタリアでは1938年に人種差別法が制定。ユダヤ系の父を持つレオは、アメリカに渡りました。

2章「ミラノ時代」
アメリカで屈指の広告代理店、N.W.エイヤー・アンド・サンに採用されたレオ。自由な社風の同社で8年余り活動しましたが、次第に自己改革の必要性を感じ、1年の休暇を取ってイタリアへ。ここでは油彩画とモザイク作品の制作に没頭しました。
アメリカに戻った後、同社を退社しています。

3章「エイヤー時代」
1949年にフリーになり、さらなる活躍の場を求めてニューヨークへ。雑誌『フォーチュン』のアートディレクターを約10年務めたほか、オリベッティ、MoMAなどの仕事も手がけました。
アメリカで認められたレオは、ナチズムの台頭で亡命してきた多くのヨーロッパ系デザイナーとともに、この国で多くの賞を受賞しています。

4章「ニューヨーク時代」
高校時代から共産主義者を自認していたレオ。義父(妻の父)も、イタリア共産党の創立時からのメンバーです。
今回の調査で、社会や政治を風刺した大量の作品が見つかりました。1940年代から50年代にアメリカで描いたと思われ、ヒトラーを痛烈に批判した作品のほか、今日でも問題になっている人種問題をテーマにした作品もありました。

5章「政治風刺」
油彩画については、レオは未来派時代にも抽象的な作品を描いていましたが、本格的に学んだのはアメリカに渡ってから。その画風は、シャガールやクレーからの影響が感じられます。
1947年には、ニューヨークで初めての個展も開催しました。

6章「油彩画」
レオの油彩画で最も多く制作されたのが「想像肖像」シリーズです。エジプトのミイラ肖像画から着想し、仕事のかたわらに制作されました。
モデルは実在する人物と想像上の人物が入り混じっています。

7章「『想像肖像』とプロフィール」
レオによる初めての絵本は『あおくんときいろちゃん』で、49歳の時。以後、1年に約1冊のペースで絵本を発表しました。
絵も文も自作で、物語絵本は計29冊。コラージュ、鉛筆、テンペラ、クレヨン、版画など技法も多彩です。平和や友情、自分らしくあることの大切さ、考えて行動することの重要性などを、絵本を通じて子供たちに説いています。

8章「絵本」
近年、注目を集めているレオの作品が「平行植物」シリーズです。
1970年代の油彩画を皮切りに、鉛筆画、版画、ブロンズ彫刻など。想像力豊かにその世界は広がり、架空の民話や地誌を盛り込んだ書籍まで出版されました。
本展の終了後、「平行植物」の作品を中心に、67点が板橋区立美術館に寄贈される予定です。

9章「平行植物」
「鳥シリーズ」は、1996年より前に描いた白い鳥の絵と、新たに描いた籠の中の鳥を組み合わせたインスタレーションです。展覧会に出展されたあと、しばらくはイタリア・トスカーナ州のラッダ・イン・キャンティのレオのアトリエに飾られていました。
レオは1969年から暮らしたラッダをとても愛していました。名誉市民になったこの小さな町で、1999年に89歳で息を引き取るまで、多くの友人に囲まれて過ごしました。

10章「鳥シリーズ」
展覧会は1階にも続きます。
今回の調査では、レオの絵本制作にかかわる資料が重点的に調べられましたが、創作プロセスの手がかりはほとんど見つける事ができませんでした。
ただ『じぶんだけのいろ』のカメレオンのステンシルは、絵本に使った版を発見。水彩絵具で紙の版に着彩し、スタンプした様子を見る事ができます。

11章「レオの絵本作り」
レオの絵本をもとにしたアニメは6本あり、うち5本はレオが制作に直接かかわりました。
まず1967年に『スイミー』と『フレデリック』をもとにしたアニメーション・フィルムを制作。ついで1986年に『コーネリアス』『じぶんだけのいろ』『さかなは さかな』が制作されました。会場にはアニメーションの原画が公開されています。

12章「レオのアニメ」
本展は、2018年から今年にかけて全国巡回した「みんなのレオ・レオーニ展」の姉妹展。「みんなの…」がレオのメインストリームが中心なのに対し、本展はさらに掘り込んだ企画です。縁が深い板橋区立美術館ならではの、レオの深く、魅力的な世界を知る貴重な展覧会が実現しました。
なお、入場はオンラインでの日時予約が必要です(予約が定員に達していない場合は予約なしでも入場可)。ご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年10月28日 ]