東京都庭園美術館で、8人の現代美術家の作品を通して、人間と自然との関係性を問い直す展覧会が開催中です。
アール・デコの重要文化財・旧朝香宮邸を利用した美術館ですが、過去にもクリスチャン・ボルタンスキー(2016年)、内藤礼(2014年)と、ときおり現代美術展も開催されています。

東京都庭園美術館 外観
室内空間にあわせた展示構成のため、館内各所に8人の作品が点在していますが、ここでは50音順でひとりずつご紹介しましょう。
青木美歌さん(1981-)は、東京生まれ。大学一年の時にガラスに出会って以来、この透明な素材を通した見えない世界との関係を問いながら制作を続けてきました。そこに「ある」のに「ない」ように感じるガラスの特性に興味を覚えるという青木さん。今回は新作が中心で、特に新館ギャラリー2のインスタレーションが印象的です。

会場風景 青木美歌《光に始まる 光に還る》2020
淺井裕介(1981-)さんは、東京生まれ。植物をマスキングテープに耐水性マーカーで描く「マスキングプラント」、滞在場所で採取された水や土を使った巨大な「泥絵」などで知られています。近年は、猟師とともに山に入って仕留めた鹿の血を使った作品も制作。1階大広間の巨大な絵画は、中心部分の8枚が鹿の血で描かれたものです。

会場風景 (手前)淺井裕介《風の冠》2020 / (奥)淺井裕介《混血 ― その島にはまだ言葉がありませんでした》2019-2020
加藤泉(1969-)さんは、島根生まれ。作年は群馬と東京で大規模展が開催され、話題になりました。胎児のような「人型」の油彩画で注目を集め、2004年頃からは人型を模した彫刻作品も制作。本展でも、玄関入って左手の第一応接室のほか、大食堂、ベランダと、さまざまな場所で多様な素材の作品が展示されています。

(奥)加藤泉《無題》2020
康夏奈(1975-2020)さんは、東京生まれ。山や海へのフィールドワークによる身体経験から醸成された記憶をもとに、風景をモティーフにした作品を制作してきました。《Cosmic Cactus》シリーズは、砂漠の植物を模した作品。他に自然のパノラマ感を感じさせる作品も展示されています。なお、康さんはこの展覧会の展示企画進行中に逝去されています。

(左奥)康夏奈《Cosmic Rafflesia Arnoidii》2016 / (右手前)康夏奈《Cosmic Young Girl Rafflesia》2016
小林正人(1957-)さんは、東京生まれ。作品は絵画ですが、キャンバス、フレーム、絵を、組み立てたり解体したりするのが特徴的。階段を上がった二階広間にある《Unnamed #66》は、床置きの絵のシリーズの近作。2階の北の間にある《名もなき馬》も、キャンバスの端がフレームから剥がされています。

小林正人《名もなき馬》2014
佐々木愛(1976-)さんは、大阪生まれ。砂糖細工にも似たアイシング彫刻で知られますが、近年は塗り壁用の新しい素材を用いた壁画も制作しています。本展に出展している《鏡の中の庭園》《鳥たちが見た夢》も、素材は新しい無機質塗材。全体的に白一色なので、光の移り変わりで多彩な表情を見せてくれると思います。

佐々木愛《鏡の中の庭園》2020
志村信裕(1982-)さんは、東京生まれ。本館1階の《ルーブルの羊》は、ルーブル美術館で羊が描かれた作品をつないだもの。新館での長編《Nostalgia, Amnesia》では、フランスと日本の羊毛産業の歴史を淡々と描いていきます。朝香宮が実際に所有していた楽譜に映像を投影する作品もありました。

志村信裕《Nostalgia, Amnesia》2019
山口啓介(1962-)さんは、兵庫生まれ。花や種子を天然樹脂で固めた「カセットプラント」などを発表してきました。本展では、生花と造花を用いて自然と人工を対比させる「カセットプラント」を展示。本館から新館へと続く渡り廊下の《花波ガラス》が目を引きました。新館のギャラリー1でも大型の絵画作品が展示されています。

会場風景 山口啓介《香水塔と花箱》2020
「作品と建物、双方が引き立つように」との思いで展覧会をつくったという、担当学芸員の浜崎加織さん。緑豊かな自然に囲まれた邸宅を舞台に、個性的な作品が競うように展示されています。
なかなかコロナは終息の兆しが見えませんが、やはり美術鑑賞は足を運んでこそ、という思いを改めて感じました。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年10月16日 ]