生前から高い人気がありましたが、近年さらに盛り上がりをみせている芳年。太田記念美術館でも、2017年に「月岡芳年 妖怪百物語」と「月岡芳年 月百姿」を2カ月続きで開催。芳年ファンを喜ばせました。
今回は3つのテーマで、芳年の妖しさに焦点をあてました。
第1章「妖艶」。芳年の美人画は、点数こそ武者絵や歴史画に及ばないものの、歌川派の系譜に則った、浮世絵らしい作品です。
数多く展示されている「風俗三十二相」は、晩年を代表する揃い物。「ひんがよささう」「かゆさう」など「~さう」(~そう)という題名で、女性の仕草を描いています。
芳年の美人画は、目鼻立ちだけでなく、指先や目元など細かな表現に注目。単なる肖像画ではなく、女性の内なる感情が漂ってきます。
第2章は「闇」。月をテーマにした全100点揃物「月百姿」をはじめ、芳年の作品には夜を舞台にした作品も目立ちます。
パキッとした人物描写は、芳年ならでは。背景を濃い色で描いた夜の作品は、自ずと手前の人物像が映えるので、より芳年らしさが強調されます。
「和漢百物語」「新形三十六怪撰」は、妖怪を描いた作品。スポットライトのような行灯の光、障子に写ったシルエットとの戦いなど、ここでも芳年らしい構成力が見られます。
なお、人気が高い「奥州安達がはらひとつ家の図」は、後期の展示です。
地下に進んで、第3章は「血」。血が飛び散る凄惨な作品は、芳年の象徴ともいえます。
芳年が得意とした武者絵や歴史画。ただ、このジャンルを得意にした浮世絵師は多く、芳年の師である歌川国芳も、武者絵は十八番でした。
芳年の作品が際立って見えるのは、その残酷な表現です。背後から斬り付ける、喉に刀を突き立てるなど、まさになんでもござれ。阿鼻叫喚の地獄絵が、これでもかと描かれています。
ただ、その特異性は、必ずしも芳年の個人的な嗜好というわけではありません。幕末から明治の開国に至る激動の時代が、より激しい表現を求め、その期待に応えたのが芳年、という捉え方もできます。
いずれにしても芳年の作品は、同時代は元より、後年の江戸川乱歩や三島由紀夫らをも魅了しました。「血みどろ絵」「無惨絵」などと呼ばれ、熱狂的なファンを生む事になりました。
新型コロナウイルス感染症対策のため、今回の展覧会は畳のコーナーは未使用。手が触れる可能性が高い、2階の覗きケースも使っていません。当初は1階・2階での開催予定でしたが、地下も使う事で作品の間隔も開けるなど、美術館として取りうる対策はすべて実施したうえでの開催になりました。
時期が時期なので「多くの方に見て欲しい」と呼びかけられないのが実にもどかしいですが、いつものように編集部おすすめの展覧会としてご紹介いたします。
※前後期で全作品が展示替えされます。
※予告なく休館になる可能性もあるので、来館前に必ず公式サイトやハローダイヤルなどで開館状況をご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年3月31日 ]