「月をテーマにした日本美術」なら珍しくありませんが、「月が主題の100連作」となると話は別。月岡芳年は名前に「月」の文字が入っているため、月に対して強い思い入れがあったのかもしれません。
「月百姿」が出版されたのは明治18~25年です。全100点が刊行されたのが明治25年4月、芳年が没したのは同年6月なので、文字通り最晩年の作品という事になります。
会場ではテーマで分類して4章で構成されています。第1章「麗しき女性たち」には、平安時代~江戸時代、さらに中国の女性も登場します。
第1章「麗しき女性たち」続いて「妖怪・幽霊・神仏」。妖怪は前の展覧会「
月岡芳年 妖怪百物語」でも紹介されていた芳年得意のジャンルですが、「月百姿」での妖怪は恐ろしい描写は少なめ。月が出ている夜の静寂さの表現を重視したように感じられます。
展覧会メインビジュアルの《大物海上月 弁慶》は、舳先に立つ弁慶が大波に対峙する図。本来は大波の向こうに、平家の亡霊が描かれるはずです。主役のひとつをあえて描かずポイントを絞った構成は、芳年ならではといえるでしょう。
第2章「妖怪・幽霊・神仏」第3章は「勇ましき男性たち」。師匠の歌川国芳も武者絵が得意でしたが、芳年が描く豪傑や武将、中国の英雄も見事です。得意のストップモーションのような描写だけでなく、武将がすっと屹立する静かなイメージの作品も目をひきます。
「月百姿」では、摺りにも優れた技が用いられています。一見ではベタ塗りですが、角度を変えて絵を見ると文様が見える「正面摺り」も楽しめます。
第3章「勇ましき男性たち」最後は「風雅・郷愁・悲哀」。「月百姿」には和歌や漢詩、そして音楽にまつわる逸話が題材になった作品が数多くあります。
「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出し月かも」は、阿倍仲麻呂が遠く離れた奈良を想って詠んだ一首。秀吉に追放された秀次は、月明かりが差す寺で我が身の不運を嘆きました。しみじみとした情景にも、芳年の技は光ります。
第4章「風雅・郷愁・悲哀」初期の代表作《英名二十八衆句》の強烈な印象もあり、以前は「血みどろ絵」(残酷絵・無残絵)のイメージが強かった芳年。近年では豊かな創造性が注目を集め、多くのファンに愛される存在になりました。
まさに芳年が全てを注いだ集大成といえる「月百姿」。芳年マニアからビギナーファンまで、ごゆっくりお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年8月31日 ] | | 月岡芳年 月百姿
日野原 健司 (著), 太田記念美術館 (監修) 青幻舎 ¥ 2,484 |
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