近年人気を集め、話題の展覧会も次々開催されている河鍋暁斎。本展では幕末から明治前半の画壇において、狩野派絵師として、また様々な画派を貪欲に学びながら幅広い作風と領域で活躍した暁斎と、その長女で、柔らかで色彩豊かな美人画や小児図を得意とし、時には父・暁斎と同様の勇壮な、あるいはユーモラスな作品をも描いた女流画家・暁翠に焦点を当てます。
河鍋家には暁斎の非凡な技量をうかがわせる3000枚を超える貴重な下絵を始め、江戸末期から伝来している作品・資料が多く残っています。暁斎の曾孫である河鍋楠美氏が河鍋暁斎記念美術館を設立して以来、研究の進展とともに暁斎の多彩な画業の有り様があきらかになってきました。本展は暁斎を暁斎たらしめた伝説的なエピソードとともに、本画や浮世絵、挿絵や能・狂言画、席画などこれまで部分的に紹介されてきた暁斎を改めて総合的に展望し、娘・暁翠に受け継がれ伝えられたその画業の伝承までを網羅していきます。
絵師・暁斎は伝統的な狩野派修業を自らのものとしながら、新しい画法や表現、主題にも積極的に取り組んでいく先取の気風に溢れていました。弟子にイギリスの建築家コンドルがいたことも有名ですが、暁斎の絵師としての活発で先駆的な活動が同時代に海外で一躍有名になった一つの要因でしょう。娘・暁翠が初期の女子美術教育に携わっていたことも暁斎の多方面での活動と通じる部分があるようにも思えます。本展の最後には、「現代に伝えられる暁斎」としてエピローグを設けます。暁斎が創造した作品が現代の私たちや子どもたちに豊かなインスピレーションを与え、実際に1993年に大英博物館で開催された暁斎展の折に子どもたちがワークショップで制作した作品の記録などの紹介も含め、暁斎から暁翠、河鍋家に受け継がれ、そして近年再認識され伝えられている暁斎の魅力を幅広くご紹介します。
河鍋暁斎(かわなべきょうさい、1831-1889)
幕末から明治前半にかけて江戸・東京で活躍した狩野派絵師。その生涯も画才を示す逸話に溢れ、満2歳で初めて蛙を写生して以来、6歳で浮世絵師・歌川国芳に入門し2年ほど学んだ後、9歳から駿河台狩野家へ転じて本格的な狩野派修業をし、わずか18歳の時に「洞郁陳之」の画号を授かり修業を終了。その後も日本伝来の様々な流派や西洋画の解剖図まで学び、「描けぬものは無い」実力を備えた絵師として、多様な作品を描く。
河鍋暁翠(かわなべきょうすい、1868-1935)
父・暁斎に絵を学び、日本画家となる。暁斎は娘の幼い頃から絵手本を与えて教える。明治17年(1884)には第二回内国絵画共進会に作品を出品し、父と書画会へ参加するほどに上達。さらに明治20年(1887)には住吉派の山名貫義に入門、大和絵も学び、明治22年(1889)、暁斎亡き後も日本画や錦絵を描いて活躍し、明治30年代後半には、現在の女子美術大学草創期に教鞭をとり、日本の女子教育に尽力した。河鍋暁斎の長女、河鍋楠美(河鍋暁斎記念美術館館長)の祖母。
【関連イベント】
※明記のない場合は、申込不要・無料(ただし、いずれも展覧会の入場料金が必要、土曜は中小生無料)詳しくは当館HP(http://www.fujibi.or.jp/events/upcoming-events.html)をご覧下さい。
記念講演会「曾祖父暁斎、祖母暁翠を語る」
日時: 4月15日(日)午後2時〜
講師: 河鍋楠美(河鍋暁斎記念美術館 館長)
スペシャル・アート・トーク「現在から見る暁斎の魅力」+河鍋楠美
日時: 4月29日(日)午後2時〜
講師: 牧野友衛(トリップアドバイザー 代表取締役)
玉置泰紀(KADOKAWA 2021年室 担当部長、前ウォーカー総編集長)
伏谷博之(タイムアウト東京 代表取締役)
河鍋楠美(河鍋暁斎記念美術館 館長)
メディア、エンタメ、インターネットの分野の第一線で活躍し、アート好きでもある3名によるトークイベント。河鍋暁斎の曾孫・河鍋楠美氏を交え、現在から見た暁斎とその作品の魅力を語り合っていただきます。
暁斎が愛した能楽・狂言〜大藏彌太郎特別公演
日時: 5月3日(木)、5月5日(土)、各日午後2時から1時間程度
出演: 大藏彌太郎
暁斎が描いた能・狂言画から、《膏薬煉》《末広がり》を公演。大藏彌太郎氏による解説に加え、暁斎の曾孫・河鍋楠美氏との対談(5月3日)や親子狂言体験も(5月5日)。
記念講演会「子孫と画家の眼差し〜私見・絵師の魂 対談:河鍋楠美/山口晃」
日時: 6月3日(日)午後2時〜
講師: 河鍋楠美(河鍋暁斎記念美術館 館長)、山口晃(画家)
日本の伝統的絵画の様式を用い、油絵技法を使って描く作風で知られ、幅広く活躍する画家・山口晃氏。幕末・明治期に新しい画風・画題に挑戦し、広く海外まで知られた暁斎とその画業を継いだ暁翠の人と作品について、暁斎の曾孫・河鍋楠美氏と対談していただきます。