宇治野宗輝(1964年生まれ、東京芸術大学美術学部工芸科染織専攻卒)は、90年代より、装飾トラックの電飾や電動ドリルなどの電気製品を用いて、『Love Arm(ラヴ・アーム)』シリーズをはじめとするサウンド・スカルプチャーを制作し、数々のライヴ・パフォーマンスを披露してきました。その発展形である『The Rotators』プロジェクトでは、DJ用ターンテーブルに細工を施したレコード盤をのせた「ローテーターヘッド」と、それに接続する一連のモーター駆動の家電製品による自動リズム演奏装置を制作しています。
こうした作品には、騒音楽器を考案した未来派のルイージ・ルッソロや、工業化社会における自然主義的な視点で時代のリアリティを見いだそうとしたネオダダの影響を見ることができるかもしれません。しかし、その後、世界をかつてない規模で席巻していったのは狂乱の大量消費社会でした。そうした時代の最中に育った宇治野は、産み落とされた数々の製品をつなぎあわせ、「大量消費社会の自然主義」ともいえる世界観を構築しています。世界はさらに変貌し、私たちを支えて来た近代の物質文明の限界と終焉を予感させる現在、享楽と批評が同居する宇治野の作品は、過去を調査して再構築する中から未来のアートを作るヴィジョンを抽出するための実験といえます。
『Love Arm』シリーズや『The Rotators』プロジェクトの代表作とともに、自動車を使った大型作品の新作を発表する本展は、10年以上に及ぶ宇治野の活動の集大成となります。