プラスチックは誰もが知るように、19世紀末に技術革新とともに登場し、20世紀にかけて利便さと高い汎用性で世界を席巻した素材です。特有の鮮やかな色彩、成型のしやすさは、デザインの世界に従来の素材ではなし得なかった新しい可能性を開きました。ことにアメリカにおいては、1930年代から40年代にかけてアール・デコの流行とともに個性的なデザイン製品が生み出され、後年のアメリカン・ライフ・スタイルに大きな影響を与えることとなります。
プラスチックの歴史は19世紀半ばのヨーロッパに遡り、1884年にはパリ博覧会で人造絹糸(レーヨン)が発表されました。その後1907年には天然原料を使わない完全な合成素材といえる「フェノール樹脂」がアメリカで開発、製造技術の急速な発展とともにベークライトやルーサイトなど、多種多様なプラスチック素材が登場します。これらの新素材はそれぞれの強度や色彩の表現力、また透過性などの特質を生かし、さまざまな分野に取り入れられていきました。
例えば1920年代から30年代のメディアの主役、ラジオに使われたベークライトは、この分野に機能性だけでなく高い装飾性をもたらし、インテリアを飾る「ファッションアイテムとしてのラジオ」を誕生させます。大胆に流線型を取り入れた形状、また独特の色彩は、ラジオをコレクションアイテムの地位にまで高めました。またプラスチックの汚れにくさと強度を生かしたキッチン用品や、豊かな表現力が求められるファッションの世界においてもプラスチックは大きな魅力を発揮します。当時女性の社会進出を背景に拡大しつつあった宝飾品分野では、いち早くこの新素材が取り入れられ、プラスチックならではの形や色彩を生かしたアクセサリーや小物は多いにもてはやされました。
本展ではプラスチックが大衆の文化を担う素材として広まった1930年代を振り返り、人々の生活をモダンに、かつ華やかに彩った数々の作品を通して、新素材の開発にかけた当時の社会のエネルギーとデザイン感覚をご紹介します。