現在、ポスターは広く芸術の一種として認められていますが、ポスターが何らかの事物を広く知らせるために制作されるものであり、かつその制作に印刷術が用いられていることを考慮するならば、従来の「ポスター=芸術作品」という見方だけで、ポスターの本質を十分理解することは難しいと思われます。特に、わが国のように外国製の多色石版による色鮮やかなポスターの物理的な流入と、広告という新しい概念の普及、そしてそれを支える印刷の技術革新が一度期に起こった国では、ポスターの実態把握を行うためには、より複眼的な視点や多角的アプローチが必要となるでしょう。このため、本展ではポスターに芸術的な価値があることを前提にしつつも会場を大きく2部門に分けています。まず、第1部の「印刷物としてのポスター」では、これまで顧みられることの少なかったポスターの制作方法や、その制作に用いられた「印刷」という技術の変遷、および印刷会社の役割に光を当てながら作品を紹介しています。そして、第2部の「広告物としてのポスター」では、第1部で解説した技術的な事項を押さえながらも、ポスターがあくまでも「広告」としての目的を果たすべく制作されたものであり、そのためにさまざまな工夫が施されていたことを理解できるように作品を展示しています。
本展では、明治末から昭和戦前期にかけてわが国で制作されたポスター用原画と関連資料あわせて約160点を展示します。これらを通して当時の国内に「ポスター文化」と呼ぶにふさわしいものが存在したこと、そしてポスターが文字通り英知の結晶であることを多くの方々に実感して頂けましたら幸いです。