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    レポート
    時空を超えた祈りのかたち ― 三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」(レポート)
    三井記念美術館 | 東京都
    ガンダーラで生まれた弥勒信仰。中央アジアから中国・朝鮮を経て日本まで
    タリバンにより破壊されたバーミヤン大仏壁画の描き起こし図が東京初公開
    法隆寺など、日本の古寺に伝わる弥勒信仰の諸相も展示。京都からの巡回展

    アフガニスタンのヒンドゥークシュ山脈の中にあるバーミヤン遺跡。東と西の石窟群には、それぞれ中央に大仏があり、東大仏の上部には太陽神が、西大仏の上部には弥勒菩薩が上生した「兜率天(とそつてん)」の世界が描かれていました。

    太陽神と弥勒の世界を中心に、特に日本の古刹に伝わる仏像なども紹介しながら「未来仏」である弥勒信仰の流れに焦点を当てた展覧会「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」が、三井記念美術館で開催中です。


    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場入口
    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場入口


    では早速、目にとまった作品をご紹介しましょう。

    《スーリヤ柱頭》は、ストゥーパ(仏塔)表面に装飾的に設けられた、付け柱の柱頭です。

    ガンダーラの仏教寺院ではしばしば太陽神・スーリヤが表現されますが、ここでも中央に4頭立ての馬車に乗って正面を向く太陽神の姿がみられます。


    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場より 《スーリヤ柱頭》ガンダーラ・2~3世紀 平山郁夫シルクロード美術館
    《スーリヤ柱頭》ガンダーラ・2~3世紀 平山郁夫シルクロード美術館


    こちらの《風神像》はインドの風神、ヴァーユの彫像。上半身裸で、両手で翻るマントの端を握っています。

    グプタ朝期の作例は図像的に類例が少なく、貴重な作例です。


    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場より 《風神像》インド北部/グプタ朝・5~7世紀 平山郁夫シルクロード美術館
    《風神像》インド北部/グプタ朝・5~7世紀 平山郁夫シルクロード美術館


    大阪・羽曳野市の野中寺に伝来した《弥勒菩薩半跏像》は、丙寅年(666)に造立されたもの。台座の銘文に、この像が弥勒菩薩であることが記されています。

    初唐様式をいちはやく導入し、日本でつくられたものとみられています。


    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場より 重要文化財《弥勒菩薩半跏像》白鳳・天智5年(666)大阪・野中寺
    重要文化財《弥勒菩薩半跏像》白鳳・天智5年(666)大阪・野中寺


    2001年にタリバンによって爆破されたバーミヤン石窟の東西大仏。かつて京都大学、名古屋大学の調査隊が記録した写真、ノート、スケッチなどを基にした描き起こし図が完成し、本展覧会で東京初公開となりました。

    今後、世界中の研究者によって利用されると考えられます。


    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場より (左から)《バーミヤン西大仏龕壁画 描き起こし図》宮治昭監修・正垣雅子筆 2023年 龍谷ミュージアム / 《バーミヤン東大仏龕天井壁画 描き起こし図》宮治昭監修・正垣雅子筆 2022年 龍谷ミュージアム
    (左から)《バーミヤン西大仏龕壁画 描き起こし図》宮治昭監修・正垣雅子筆 2023年 龍谷ミュージアム / 《バーミヤン東大仏龕天井壁画 描き起こし図》宮治昭監修・正垣雅子筆 2022年 龍谷ミュージアム


    インドではガンダーラ地方を中心に、弥勒菩薩のさまざまな場面が像になってきました。

    こちらの《弥勒菩薩立像》は上半身裸で、天衣と裳をまとった姿。

    髪を結い上げて左手に水瓶を提げる姿は、ガンダーラにおける弥勒菩薩の典型的な表現で、バラモン行者や梵天(ブラフマー)などが元になっています。


    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場より 《弥勒菩薩立像》ガンダーラ・3〜4世紀
    《弥勒菩薩立像》ガンダーラ・3〜4世紀


    こちらの《観音菩薩半跏思惟像》は、豪華なターバン冠飾をかぶった姿。左手に蓮華を執っていることから、観音菩薩と考えられています。

    台座には「ダミトラ」というからの寄進であることがわかる銘文が残っています。


    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場より (手前)《観音菩薩半跏思惟像》ガンダーラ・3〜4世紀 平山郁夫シルクロード美術館
    (手前)《観音菩薩半跏思惟像》ガンダーラ・3〜4世紀 平山郁夫シルクロード美術館


    中国の初期弥勒信仰をみると、敦煌の石窟で巨大な弥勒菩薩像が造立されています。南北朝時代の華北を統一した北魏でも、石窟に弥勒像がみられます。

    こちらの《菩薩半跏思惟像》は、台座の銘文から制作年代が判明しています。


    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場より 《菩薩半跏思惟像》東魏・武定2年(544)
    《菩薩半跏思惟像》東魏・武定2年(544)


    法隆寺は奈良時代以来の法相学を継承し、仏像、仏画など多くの弥勒如来像、弥勒菩薩像が伝来しています。

    左手に宝塔を載せた蓮華を執る《弥勒菩薩坐像》は平安前期、両手を脚上に置いた《弥勒如来坐像》は平安中期頃の制作とみられています。


    三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」会場より (左から)重要文化財《弥勒菩薩坐像》平安時代前期・9世紀 奈良・法隆寺 / 重要文化財《弥勒如来坐像》平安時代・10世紀 奈良・法隆寺
    (左から)重要文化財《弥勒菩薩坐像》平安時代前期・9世紀 奈良・法隆寺 / 重要文化財《弥勒如来坐像》平安時代・10世紀 奈良・法隆寺


    バーミヤンでの太陽神と弥勒を中心に、ガンダーラ地方から日本までの仏教美術の変遷を楽しめる企画。京都の龍谷ミュージアムからの巡回展です。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年9月17日 ]

    《仏伝浮彫「出城」》ガンダーラ・2~3世紀 半蔵門ミュージアム
    《仏伝浮彫「初転法輪」》ガンダーラ・2~3世紀 東京国立博物館
    《奉献小塔》ガンダーラ・2~3世紀 平山郁夫シルクロード美術館
    《弥勒菩薩交脚像》ガンダーラ・2~3世紀 平山郁夫シルクロード美術館
    《兜率天上の弥勒菩薩像》ガンダーラ・2~3世紀 東京国立博物館
    《妙法蓮華経 巻第七 1巻》敦煌/唐・上元3年(676)三井記念美術館
    会場
    三井記念美術館
    会期
    2024年9月14日(土)〜11月12日(火)
    開催中[あと46日]
    開館時間
    10:00~17:00(入館は16:00まで)
    休館日
    月曜日(月曜日が祝日・休日の場合は開館、翌平日が休館)
    展示替期間、年末年始、臨時休館日
    ※展覧会ごとの休館日は事前にご確認ください
    住所
    〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号 三井本館7階
    電話 050-5541-8600 (ハローダイヤル)
    公式サイト https://www.mitsui-museum.jp/
    展覧会詳細 バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰 詳細情報
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