子犬と女中村琢二 油彩・画布 1968年 130.3×97.0cm、福岡県立美術館蔵
福岡県立美術館作家の中村琢二(1897-1988)は福岡県宗像市出身の洋画家です。その実家に近い場所には、2017年に世界遺産に登録された「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の構成遺産である宗像大社が鎮座しています。
東京帝国大学経済学部を卒業後、体調を崩して療養生活をしていたところ、「画家にでもなってみるか」と兄に勧められて画家となったという、なんとも呑気な動機ぶりです。しかし安井曾太郎に師事してメキメキと腕を上げ、安井が旗揚げした一水会で活躍し、同時に新文展や日展でも受賞を重ね、1981年には日本芸術院会員に推挙されました。琢二の画家としての素質を見抜いた兄・中村研一は、戦前の洋画界を牽引したスター作家です。この兄弟はともに戦後の洋画壇において重きを成しました。
琢二の得意としたのが、風景画と人物画です。秀でたデッサン力を活かしながら、細部に拘らずにさっぱりとした筆使いで軽快な雰囲気の画風を作り上げました。長男の妻をモデルにして描かれた本作も、ゆるぎない安定した構図の強さを有しながらも、柔和な色彩と添えられた愛犬によって和やかさがこの絵を支配しています。
担当者からのコメント:カラリストであった琢二の作品は、とても色合いが素敵です。人物画を彼が好んだ理由のひとつが、服装や背景を自由に配色できることでした。本作でも背景の明度の高い緑や灰色、そして上着の水色が、画面に爽快さを呼びこんでいます。そして黒も重要な要素です。背景のストライプと壁、女性の髪、スカートの格子柄、そして犬。上から下へと続く黒の流れを犬が受け止めています。中村家の愛犬は、絵の中でも大切な役割を果たしているのです。