浮世美人寄花 山しろや内はついと 萩鈴木春信 明和6~7年(1769~70)頃
山口県立萩美術館・浦上記念館「浮世美人寄花(うきよびじんはなによする)」は、当時の江戸の高名な美人を花になぞらえ、その花を詠んだ和歌を添えて描いたシリーズです。この作品で描かれているのは吉原の遊女、山城屋初糸(やましろや はついと)で、「分け行けば誰が袂にも移るらん 我しめし野の萩が花摺」という和歌が記されています。
初糸は遊女見習いの禿(かむろ)の帯を締めている最中ですが、視線は背後の床の間の方に向けられています。その先には「初いと様」と書かれた恋文が。掛軸の中の猿が手を伸ばして初糸に恋文を差し出しているのです。猿が描かれたこの画中画は禅画の「猿猴捉月図(えんこうそくげつず)」(猿が水面に映る月を捕らえようとする図。身の程をわきまえずに行動して失敗することのたとえ)を滑稽化したものと考えられます。誰しもが、猿さえもが美しい初糸に心を寄せずにはいられないようです。
担当者からのコメント:この作品は、現在計画中の当館開館20周年を記念した特別展示「東洋陶磁と浮世絵―館蔵名品展」(2016/9/10~10/16)に出品される予定です。ぜひかわいいお猿さんを見にお越しください。