第19回 西浦直子(国立ハンセン病資料館 学芸員)
当館はハンセン病患者、回復者、及びその家族への差別と偏見の解消、並びに名誉回復を目指して活動しています。回復者自身が収集してきた資料をもとに、資金集めから展示制作を関係者の手で担い、開館したのが1993年。らい予防法廃止と隔離政策に対する国家賠償請求訴訟による原告(元患者)の勝訴により国の人権侵害が司法の場で確定したことをうけ、2007年に国立の施設としてリニューアルオープンしました。
常設展示室では、1.日本のハンセン病対策の歴史、2.療養所での過酷な暮らし、3.患者運動と文化活動、回復者による証言映像、ハンセン病問題の現状、についてご覧いただけます。歴史から生活へ、そして人権を大きく損なわれながらも自分らしく生きようとした人びとの運動と表現を辿る過程で、隔離政策が一人ひとりの人間に及ぼした被害に向き合う構成となっています。
2階のギャラリーや図書室からは、この場所の歴史と記憶を伝えるために回復者が植えたサクラ並木を一望できます。ぜひゆっくりお時間をとってご来館いただき、故郷を追われ、精一杯生き、この地に眠る人びとの声に耳を傾けてみて下さい。
国立ハンセン病資料館 常設展示室 1928年に建築された雑居部屋(山吹舎)の一室原寸再現
私のおすすめミュージアム
沖縄愛楽園交流会館
私のおすすめミュージアムは、沖縄県名護市の「沖縄愛楽園交流会館」です。同館は沖縄愛楽園の回復者による証言集の編纂をきっかけに、2015年にオープン。沖縄の歴史と隔離政策、差別や偏見による被害に注目しつつ、ハンセン病問題の啓発を続けています。ひめゆり平和祈念資料館や南風原文化センターなど、沖縄戦の歴史、体験の継承を目指す施設との交流も盛んです。
同館の大きな特徴は、地元のつながりを活かした展示づくりです。隔離のための塀や壁、隔離小屋やコンセット病棟などの原寸再現展示の制作には、名護博物館、沖縄出身のアーティスト、沖縄県立芸術大学のみなさん、そして愛楽園の回復者や営繕担当職員も参加しました。園内や近隣で暮らす回復者はオープン後も、解説ボランティアなどを担っています。
2020年から翌年にかけて開催された5周年記念企画では、沖縄戦下のハンセン病患者とその家族を描いた「儀間比呂志 絵本『ツルとタケシ』原画展」(2020年)、勇崎哲史による県内の戦跡で蝉が羽化する写真と平井真人の型染のコラボ展「沖縄の傷痕―記憶の森へ」(2021年)、回復者、障害者、健常者といった肩書を取り払い「手仕事」という視点で多くの作品を展示した「手仕事・共生 手と手 他者(ひと)をおもう。―沖縄愛楽園とゆがふ舎に集うひとびとの作品展」(2021年)など、特徴ある展覧会を次々に開催。朗読劇やトークイベント、教員を対象にしたセミナーなどのオンライン配信も積極的に行っています。
美しい屋我地の海辺から、愛楽園で生きた人びとの記憶をさざ波のように広げているミュージアム。ぜひ訪れてみて下さい。
沖縄愛楽園交流会館 外観
沖縄愛楽園交流会館 常設展