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富山、石川、福井の北陸3県を舞台に工芸の魅力を発信する祭典「GO FOR KOGEI」。今年は富山市の3つエリアを会場に26名が参加しています。
工芸だけではなく、現代アートやアール・ブリュットの作品も紹介している「GO FOR KOGEI」。その魅力と意義について、総合監修・キュレーターを務める東京藝術大学名誉教授の秋元雄史さんに伺いました。
■「GO FOR KOGEI」 に関わることになったきっかけを教えてください。
金沢21世紀美術館の館長をしていた時(2007-2017年)に、金沢では工芸をつくっている人が多く、またそれを楽しんでいる人が多いことが分かりました。
21美でも工芸の展覧会をやりましたが、それ以降も北陸の工芸には興味を持ち続けています。この魅力を多くの人に知ってもらえれば、という思いで始めたのが「GO FOR KOGEI」です。
■「GO FOR KOGEI」の特徴は、どのようなものでしょうか。
「工芸」というと一般の人は伝統工芸をイメージしますが、今の時代の価値観の中で工芸を紹介しています。伝統工芸のような狭いジャンルに押し込めるのではなく、新しいものとして見せていきたいと思っています。
また、工芸だけを見せるのではなく、現代アートや、アール・ブリュットと呼ばれるアウトサイダーアートを含めて紹介しています。さまざまなジャンルを通じて、工芸的な取り組みを見せています。
さらに加えると、工芸の価値を高めたいと思っています。美術には絵画や彫刻など用途を持たない美術と、工芸のように用途がある美術があり、日本ではあまり感じませんが、特に欧米では、明確に絵画彫刻が上です。工芸はクラフト、つまり趣味的なイメージで捉えられ、扱いが下になります。その境を取っ払いたいという思いは、強くあります。
■展覧会タイトル「物質的想像力と物語の縁起 ―マテリアル、データ、ファンタジー」については?
絵を描くには油絵の具を使う、焼き物は土をこねて焼く、彫刻は木を削るなど、美的な創作は全て何らかの物質を使います。
「物質的想像力」は、物とのやりとりの中で生まれてくる創造力のことで、フランスの科学哲学者、ガストン・バシュラール(1884-1962)の言葉です。彼は『水と夢:物質的想像力試論』という著書を書いています。
「GO FOR KOGEI」の会場は運河沿いに展開しており、来場者も鑑賞するなかで運河の水を近くに感じます。また、展示されている作品も、水や夢に関連するものも多いことから、展覧会タイトルにしました。
■展示される場所が特徴的ですが、場所を決めてから作家を選んでいるのでしょうか? またはその逆でしょうか?
両方です。この作家に出して欲しいと決めながら、同時にこの人だったらここがいいな、とも考えています。使える場所を交渉しながら作家を落とし込んでいくという感じです。
作家同士の作品が、どのようにつながっていくか。個々の作家の作品の力を楽しんでもらうのもありますが、作品を見ていく過程で、来場者がどんな風に感じるかも意識しています。
■今回、会場が富山市だけになったのは?
これまでは北陸3県をまたいで、寺や神社も会場にしていました。それはそれで面白いのですが、移動に時間がかかって見切れない、という意見もありました。
食べる楽しみとか、他の観光スポットを訪れるような楽しみとか、アート以外の文化的なものも含めて考えて、今回は「GO FOR KOGEI」とともに、富山の街を楽しむことも提供したいと思い、エリアを絞りました。
■展示されているエリアについて教えていただけますか?
3つのエリアで、それぞれ異なった表情が見えると思います。岩瀬は江戸時代末期ぐらいまで遡れる、歴史的な町並みが残っている場所。中島閘門は日本が近代化していった時に生まれてきた産業遺跡。環水公園の周辺に美術館があり公園として整備されたりというのは、まさに今の富山です。移動するだけで、ある種のタイムトリップ的な体験もできます。
3つのエリアのひとつ、岩瀬エリア
■さまざまな作品が並んで展示されていますが、作家側の反応はどうですか?
テーマに沿って僕が声をかけているので、作家さん同士は、どうしてこの人と一緒に空間をシェアしてるのか、分からないと思います。ある種の緊張感があるかもしれません。
ただ僕は、キャリアが長い人を選ぶとか、新人は選ばないとか、そういうのは全然ないんですよ。僕は日本の社会を守ってるそういう事って、大嫌いなんです。力があって、自分が何を表現したいかっていうことをはっきり出していくことが大事なので。周辺の状況を見て「これが受けるだろうな」とか、考えて欲しくない。そういう作家の作品は、一切出してないです。
アートの役割は違うことを見せることだと思うんですよ。多様なものが本当にあるんだっていうこと、自分以外の考え方や見方があるということを伝えていくための場です。
日本は同調圧力がものすごく強い社会です。多くの人は、ほとんどそれを意識せずに暮らしているので、ちょっと違うだけで「なぜこうなんですか」みたいな話になるんだけど、本当はみんな違うんですよね。アートもそうなったら、もう本当に終わりです。
どれだけ自由でいられるか。昨日と違う時間が来るわけなので、それに向き合いながら生きていけるか。アーティストは、やっぱりそういう人であってほしいですよね。
■今後の「GO FOR KOGEI」の展開で、考えていることがあれば教えてください。
作家さんのバリエーションが増えたらいいな、と思ってます。東アジアでもいいし、もっと遠くならさらに良い。ちょっと違うだけで、全然視点が違うし、考えることも違う。属性、出身地、性別、年齢の幅…。違ったバックグラウンドを持った人たちが参加する場にしていきたいなと思います。
ただ一方で、作家さんに関してはもうちょっと地元の作家さんたちの数を増やしてもいいのかな、とも思っています。
また、デザインとの関係の中で工芸を読み解くこともしていきたいと思っています。今回はアート志向が強い工芸が目立ちますが、もうちょっと実際に使えるもの。生活に取り入れられるのは工芸の一つの魅力なので、それも出していきたいです。
ただ繰り返しますが、あまり単純化したくないという思いもあります。みんな答えを求めていて「これですよね」と思いたいようですが、混乱みたいなものも含めて今の時代感を反映しています。その中で、見てる人たちが何を選ぶのかっていうことのほうが、正しい気がするんですよ。
見る側が選ぶことは、批評力を鍛えることになるだろうし、認識を鍛えることになっていきます。「GO FOR KOGEI」は、そういう事ができる場にしておきたいと思っています。
■ありがとうございました。
→ 取材レポート「北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023」