写真家・石元泰博は、東京・シカゴで活躍。都市の人々や街並みや、ポートレート、建築物を撮影してきました。
2021年には、石元の生誕100年を迎えます。それを記念し、東京都写真美術館、高知県立美術館と東京オペラシティギャラリーの3館共同開催を実施。石元の足跡を過去最大規模で回顧していきます。

会場入口 ©高知県,石元泰博フォトセンター
展示はシカゴで撮影をした初期作品から16章に分けて、順を追って紹介しています。
1921年にサンフランシスコで生まれた石元は幼少期に日本に戻り、18歳まで高知で過ごします。高校卒業後に渡米。戦後、シカゴにてインスティテュート・オブ・デザイン(通称ニュー・バウハウス)で写真を学びました。1章では、在学中の実験的な作品や、戦時中の収容所時代のフォトアルバムを展示しています。

《写真帖》1940年代 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
1953年に来日した石元は、東京の躍動感を撮影。その後も数年ごとに東京を訪れます。“シカゴ”と“東京”のそれぞれの街並みや人々から、時代の流れを感じることができます。

《東京 街》1950-60年代 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター

《シカゴ ビーチ》1948-52年 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター

《シカゴ ハロウィン》1959-61年 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
“東京Ⅱ”は、60~80年代の高度経済成長期の東京の姿を撮影。人々や街が変化し、エネルギーを感じる作品です。また、“日本の産業”では各地の工場や発電所を撮影。公害やゴミ、自然破壊にも目を向けました。近代化に対する石元の複眼的な視点が感じられます。

《東京》シリーズ 1960-70年代 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター

《日本の産業》シリーズ 1963年頃 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
同じく、石元の視点の面白さを感じることができるのが“食物誌 / 包まれた食物”シリーズ。ラップをされた野菜や魚を大型ポラロイドカメラで撮影しています。
1980年代、大量生産・大量消費を享受することで豊かになった日本の生活。あらゆる食材がスーパーで手に入り、食卓に並ぶようになりました。便利さを追求する一方、食品の個性や安全性が失われた消費者社会への批判が読み取れるシリーズになっています。

《包まれた食物》シリーズ 1984-85年 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター

《包まれた食物》シリーズ 1984-85年 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
「人間を撮ることは一番難しく、苦手だ」と語っていた石元ですが、1965~69年にはポートレートを発表。三島由紀夫や唐十郎、石原慎太郎ら日本の芸術家や俳優を撮影します。石元ならではのアングルにより、人物の個性が際立った写真が並んでいます。

左から 《セルフ・ポートレート》 1975年 / 《ポートレート(四谷シモン)》 1972年頃 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
石元は、建築やデザイン界の著名人とも交流がありました。丹下健三、磯崎新、黒川紀章、内藤廣らの建築物を撮影。構造や空間の特性を鋭く捉えた作品は、日本の芸術界に大きなインパクトを与えました。

近代建築 1950-60年代 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
近代建築だけでなく、日本の伝統建築・桂離宮も撮影。情緒的な景色を捉えるのではなく、鋭いディティールで質感や空間の拡がりを写したシリーズは高く評価をされ、代表作の一つとなっています。

桂離宮シリーズ 1953,54年 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
本展の一番の見どころは、1階に展示された“両界曼荼羅”。京都・東寺(教王護国寺)蔵の《伝真言院曼荼羅》を接写拡大したパネル118点がずらりと並んでいます。
雑誌「太陽」の仕事をきっかけに東寺へ訪れた石元。ファインダーに浮かび上がった仏や菩薩の美しさやエロスに魅了され、特別に撮影が叶いました。

両界曼荼羅シリーズ(伝真言院曼荼羅写真パネル)1973年(プリント 1978年) 国立国際美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター

両界曼荼羅シリーズ(伝真言院曼荼羅写真パネル)1973年(プリント 1978年) 国立国際美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
1977年に西武美術館で公開をした際には、曼荼羅ブームを引き起こすほど話題に。本展で展示しているパネル118点は、そこでの展示同様、デザイナー・田中一光によるトリミングです。

両界曼荼羅シリーズ(伝真言院曼荼羅写真パネル)1973年(プリント 1978年) 国立国際美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
地方の暮らしや民俗芸能にも興味を抱いていた石元。歴史や伝統へのまなざしから、中近東からインドのイスラム寺院もテーマに扱います。1993年には式年遷宮に合わせ伊勢神宮の撮影にも結実しました。

伊勢神宮シリーズ 1989,93年 高知県立美術館蔵 ©高知県,石元泰博フォトセンター
独自の視点から様々な作品を生み出してきた石元。
本展は、作家活動の前半に軸足を置いています。東京都写真美術館で開催中の「生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市」では、都市観にフォーカスし、中盤から晩年に至る作品を紹介。
相互割引もあるので、この機会に石元作品に浸ってみては。
[ 取材・撮影・文:坂入美彩子 / 2020年10月9日 ]