2つの展示室で、3名ずつが紹介されている本展。まずは第一会場からご紹介しましょう。
染谷聡(1983-)さんは漆芸作家。技法はまさに伝統的ですが、作品からはポップなテイストが漂います。モチーフの鹿は日本美術に良く見られる「神鹿」ではなく、スポーツハンティングの獲物としての鹿。引き出し状の鹿の口に弾丸が入っていたりします。
棚田康司(1968-)さんの木彫は一木(いちぼく)造り。一木造りは、奈良時代末~平安時代初期の仏像のほか、近世では円空や木喰の仏像もこの技法で作られました。作品は同じ方向を向いており、目線の先には棚田さんが敬意を払う円空仏が展示されています。
カタカナ表記の「ニッポン画」を描く山本太郎(1974-)さん。古典絵画を現代の視点で再構成します。能の演目を元にした《隅田川 桜川》は、いつもは左右が逆ですが、実は逆に置いても模様が繋がる作品。今回初めて学芸員に見抜かれたため、前期のみ特別に左右逆バージョンで展示されます。
染谷聡、棚田康司、山本太郎の作品続いて上階の展示室。ここも3名です。
妖しいイケメンを描く木村了子(1971-)さん。美しい女性を描いた「美人画」に対し、女性である木村さんが描きたいのは情感たっぷりのイケメン。草食系と肉食系の対比が楽しい屏風、人魚姫ならぬ「少年人魚」、九谷焼もモチーフはイケメンです。お話も伺いましたが、予想通りとてもユニークな方でした。
石井亨(1981-)さんの作品は日本画のように見えますが、なんと手法は糸目友禅染。糊で輪郭線を描き、その間を染料で色付けする手間がかかる技法で、そもそもは着物のための技術です。鮮やかな企業戦士と、モノトーンの美人画です。
満田晴穂(1980-)さんは、自在置物。金属で可動する生き物を作る自在は、最近は明治工芸の展覧会で良く紹介されます。草木や花鳥を描いた江戸時代の版本と、リアリティ溢れる自在の虫を並べて展示。制作にあたっては、準備したモチーフを解体して調べるそうです。
木村了子、石井亨、満田晴穂の作品美術鑑賞は理屈ではなく何よりも感覚が大切だと思いますが、背景を理解していると、より深く楽しめるのも事実。本展ではイメージの元になった古美術が、実物や写真パネルで紹介されているので、作品の成り立ちがすっと頭に入ります。
現代美術の展覧会は、実際の作家の声が聴けるのも楽しみのひとつです。本展でも出品作家によるアーティストトークが予定されています(4月16日、4月29日)。お時間が合うようなら、ぜひ。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年4月4日 ]■松濤美術館 今様 に関するツイート