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    レポート
    世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画
    サントリー美術館 | 東京都
    秋田で生まれた革命的画法
    手前は極端に大きく、陰影を強調。後ろには遠景をぼかして描き、独特の空間構成は見る人に奇妙な感覚を抱かせます。東洋と西洋の美をブレンドした革命的な画法は、江戸からも京都からも遠く離れた秋田で生まれました。
    (左手前から)桑名市指定文化財《日本風景図》小田野直武筆 三重・照源寺 / 重要文化財《不忍池図》小田野直武筆 秋田県立近代美術館 / 重要文化財《松に唐鳥図》佐竹曙山筆 個人蔵
    (左奥から)《鷹取鳥之図》小田野直武筆 個人蔵 / 《神農図》小田野直武筆 個人蔵 / 仙北市指定文化財《大威徳明王像図》小田野直武筆 秋田・大威徳神社
    (左手前から)《眼鏡絵(阿蘭陀十景 ムスコヒヤ之図)》町田市立国際版画美術館 / 《佐竹藩上屋敷》柴花江氏 / 重要文化財《色絵五艘船文独楽形鉢》肥前・有田 サントリー美術館
    (左手前から)《牡丹猫図》松林山人筆 個人蔵 / 《晩秋野趣図》松林山人筆 個人蔵 / 《白梅叭々鳥図》松林山人筆 個人蔵
    (左奥から)《白梅鸚鵡図》佐々木原善筆 個人蔵 / 《名花十友図》佐々木原善筆 個人蔵 / 秋田市指定文化財《花鳥図》佐々木原善筆 秋田市立千秋美術館
    (右手前から)《品川沖夜釣》小田野直武筆 柴花江氏 / 《新川酒蔵》小田野直武筆 柴花江氏 / 《東叡山寛永寺》小田野直武筆 柴花江氏
    (左から)秋田県指定文化財《燕子花にナイフ図》佐竹曙山筆 秋田市立千秋美術館 / 《蝦蟇仙人図》佐竹曙山筆 個人蔵 / 秋田県指定文化財《児童愛犬図》小田野直武筆 秋田市立千秋美術館
    (左から)《柳に白鷺図》松平定信筆 桑名市博物館 / 《小禽・椿花図》藤氏憲承筆 公益財団法人平野政吉美術財団 / 《円窓美人図》藤氏憲承筆 秋田市立千秋美術館
    (左奥から)《海浜風景図》安田雷洲筆 個人蔵 / 《蝦蟇仙人図》太田洞玉筆 歸空庵 / 《張良・韓信図》荻津勝孝筆 個人蔵
    秋田蘭画の中心人物が、秋田藩士の小田野直武(おだのなおたけ・1749-1780)。若い頃から画才豊かで、初期に描いた絵馬からも高い技術が伺えます。狩野派に学んだほか、浮世絵風の作品も伝わっています。

    ただ、初期の作品は、さほど独自性は感じられません。直武の運命を変えたのが平賀源内との出会いでした。


    第1章「蘭画前夜」

    平賀源内は、日本のダ・ヴィンチと称される多彩の人。江戸に派遣された直武は、源内との交友を通じて西洋の学問=蘭学に触れ、大いに刺激を受けました。

    源内も直武の才能を認め、『解体新書』の挿絵を描くことに抜擢。教科書で知られる『解体新書』の表紙は、直武が描いたものです。

    南蘋(なんぴん)派の影響も忘れてはなりません。長崎に来航した中国人画家・沈南蘋(しんなんぴん)がもたらした写実的な画風は、当時の画壇に大きな影響を与え、直武は南蘋派の宋紫石(そうしせき)から技法を学びました。

    蘭学から西洋画を、南蘋派から東洋絵画を身に着けた直武。双方の特性を理解した上で辿り着いた先が、秋田蘭画でした。


    第2章「解体新書の時代~未知との遭遇~」、第3章「大陸からのニューウェーブ~江戸と秋田の南蘋派~」

    展覧会のメインが、第4章の「秋田蘭画の軌跡」。直武や、秋田藩主の佐竹曙山(しょざん)、角館城代の佐竹義躬(よしみ)らによる秋田蘭画の傑作の数々が紹介されています。

    佐竹曙山は第8代の秋田藩主。書画は武家の嗜みなので、絵が上手い大名もいますが、佐竹曙山は格別です。よほど絵が好きだったようで、日本で初めて西洋画論を書いたのもこの人です。佐竹義躬も絵画や俳諧に明るく、直武が角館出身という事もあって親しく交流していました。

    写実的なモチーフ、強いコントラスト、奇妙な構図。美術史上の主流作品を見慣れた私たちからすると、どこか居心地が悪いようにも感じますが、これが秋田蘭画の最大の魅力です。


    第4章「秋田蘭画の軌跡」

    「美術史上の主流」と書きましたが、逆に秋田蘭画は、美術史的には異端として終焉します。直武は謹慎を命じられ、32歳(数え)で死去。平賀源内も同じころに獄死、佐竹曙山も少し後に亡くなり、秋田蘭画の主要人物はいなくなってしまいました。

    直武から学んだのは、司馬江漢。ただ江漢は、秋田蘭画の枠のみに留まらず、銅版画や油彩画まで手掛けています。

    忘れられた秋田蘭画に再び光が当たったのは、20世紀になってからです。秋田生まれの日本画家、平福百穂(ひらふくひゃくすい)が「日本洋画曙光」を著した事で、ようやく再評価がはじまりました。


    第5章「秋田蘭画の行方」

    展覧会サブタイトルの「世界に挑んだ7年」は、1773年に直武が平賀源内が待つ江戸に出てから、1780年に亡くなるまでの7年間。その輝きは短い期間でしたが、強烈な個性は現代の私たちにも響きます。

    展覧会メインビジュアルの重要文化財《不忍池図》(秋田県立近代美術館蔵)は、12月12日(月)までの展示。描かれたポイント(上野・不忍池)は、最近ではミニリュウの巣(ポケモンGO)としても有名です。

    ※会期中に展示替えがあります。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年11月15日 ]

    秋田蘭画の近代―小田野直武「不忍池図」を読む秋田蘭画の近代―小田野直武「不忍池図」を読む

    今橋 理子 (著)

    東京大学出版会
    ¥ 7,020


    ■小田野直武と秋田蘭画 に関するツイート


     
    会場
    会期
    2016年11月16日(水)~2017年1月9日(月・祝)
    会期終了
    開館時間
    10:00~18:00
    休館日
    火曜日 ※1月3日(火)は18時まで開館 ※12月30日(金)から1月1日(日・祝)は年末年始のため休館
    住所
    東京都港区赤坂9-7-4  東京ミッドタウン ガレリア3F
    電話 03-3479-8600
    公式サイト http://suntory.jp/SMA/
    料金
    一般 1,300円/大学・高校生 1,000円
    展覧会詳細 「世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画」 詳細情報
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