建築家のヨーゼフ・ホフマンとコロマン・モーザー、実業家のフリッツ・ヴェルンドルファーの3名によって設立されたウィーン工房。建築、インテリア、家具、照明、食器など、生活に関連するあらゆるものについて装飾を一貫したスタイルで統一する「総合芸術」を標榜し、制作から販売までを一手に引き受けた企業です。1929年の世界恐慌の影響もあってその活動は約30年間にとどまりましたが、機能的でありながら優れた装飾性も兼ね備えた品々は、今なお高い評価を得ています。
銀製の花器など今回の展覧会は、ウィーン工房の初期から解散までの約30年間の全活動を、年代を追って作品とともに紹介するものです。初期に作られたコロマン・モーザーによるアームチェアーから、銀製の食器やカトラリー、家具、絵はがき、ドレス、ジュエリー、プリント生地まで、4章に分けて紹介しています。
家具などウィーン工房の30年の歴史は、大きくはコロマン・モーザーが工房を退くまでの前期と、以後の後期に分けることができます。ウィーン工房のデザインとして思い浮かぶ幾何学的な装飾は、前期のスタイル。端正かつ理性的な装飾はモダンな印象で、矢萩喜従郎さんの会場デザインにもよく映えて見えます。後期はモード部門が稼ぎ頭となったこともあり、ロココ調の装飾が特徴となっていきます。
第4章の展示19世紀末のウィーン分離派にみられる退廃的かつ芸術的な要素と、20世紀のモダンデザインが対立することなく繋がった美しいデザインの数々。ウィーン工房の活動全期を通してみることができる日本初の回顧展は、2011年12月20日(火)までの開催です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年10月7日 ]