伊予国で生まれ、摂津の観音堂で亡くなるまで諸国を廻った一遍。《一遍聖絵》はその歩みを全12巻48段にして詞書と絵で表わした絵巻です(ちなみに12と48という数は、阿弥陀如来の十二光仏と四十八の誓願に由来します)。
絵巻が作られたのは、一遍の没後10年にあたる1299年。奥書によると作者は画僧の円伊とされていますが、これほどの長巻なので、円伊による統括のもと、分担執筆または工房制作で作られたと思われます。
描かれたのは700年以上前ですが、大切に守られて来た事もあって、描写は現在でもくっきり。山河の姿を四季の風情も交えて叙情豊かに表現するとともに、人々の衣装や風俗・建物なども実に細かな部分まで描かれているため、美術史的にはもちろん、文化史の上でも極めて重要な資料です。
長いストーリーには、いくつかのポイントがあります。善光寺参り、熊野での託宣、信州で始めた踊り念仏、執権北条時宗による鎌倉入りの拒絶、片瀬浜での踊屋(日本初の劇場)…などなど。各巻の概略は会場でも解説されていますが、より詳しい解説なら図録(2,000円)がお勧め。詞書の釈文と大意はもちろん、コラムも読みごたえがあります。
また会場には、仏画や経典など、聖絵にまつわる資料も同時に展示。より深く《一遍聖絵》の世界をお楽しみいただけます。
会場遊行寺宝物館での12巻同時公開は、11月16日(月)まで。11月20日(金)からは遊行寺宝物館では1・7・11・12巻を、神奈川県立歴史博物館では11月21日(土)から4・5・6・10巻を、神奈川県立金沢文庫では11月19日(木)2・3・8・9巻が公開されます。
《一遍聖絵》全12巻を同時に一般公開するのは、史上初の試み。一館だけですべて見られるのは恐らく今後も実現しそうにありませんが、三館での展示になると各巻ごとに見られる場面が増えるという事で、こちらもまた魅力的です。
三館を巡って見るのは、諸国を巡った一遍の想いにも寄り添った企画でもあり、かつて分かれた第7巻(国宝)などを展示する連携企画を開催中の東京国立博物館(11月3日~12月13日)も含め、4館共同のスタンプラリーも開催中です。一遍の時代とは違って執権に国入りを阻まれる事もありませんので、ぜひチャレンジしてみてください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年10月19日 ]■遊行寺宝物館 一遍聖絵 に関するツイート