ドイツの実業家であるゲルダ・ケプフ夫人が1998年にデュッセルドルフ美術館に寄贈したゲルダ・ケプフ・コレクション。夫人は室内装飾を目的に、1960年代からガラス作品を収集。自身の趣味を反映したものですが、評価の定まっていない時期からドーム兄弟に注目するなど、審美眼の高さは折り紙付きです。
アール・ヌーヴォーの二大拠点は、パリとアルザス=ロレーヌ地方。本展もふたつの拠点をそれぞれの章で紹介する構成です。
まずは第1章「パリ」。アールヌーヴォー期のパリでは、東アジアの美術を意識したガラス作品が数多く作られました。中でもウジェーヌ・ルソーがデザインした《台付蓋付花器》は、北斎からの影響が顕著。波模様と跳ね上がる鯉をあしらった豪華な花器で、一品制作、または少数限定の作品と考えられています。
第1章「パリ」第2章は「アルザス=ロレーヌ地方」。フランス北東部のナンシーを中心とするこの地方は、古くから手工業が発達。森林や鉱物に恵まれた土地はガラス制作に最適で、多くの名品がこの地で生まれました。
お馴染みのエミール・ガレはナンシー生まれ。高い芸術性を求めたガレは、新たな技法を次々に開発しながらガラスの可能性を追求していきました。
ガレもまた、東洋美術に魅せられたひとり。この地の豊かな自然を発想の源とし、生命感あふれる作品を数多く残しています。
第2章「アルザス=ロレーヌ地方」から、エミール・ガレの作品兄オーギュストと弟アントナンによるドーム兄弟も、ロレーヌ地方の出身。ガレの影響を受けながらも独自の作風を模索し、自然をモチーフにした作品を、色鮮やかに表現しました。
中でも展覧会のメインビジュアルになっている《花器(ブドウとカタツムリ)》は、いかにも目をひく逸品。さまざまの色のガラスを部分的に溶着し、側面には二匹のエスカルゴ。表面にも彫刻が施された高級品で、おそらく1905年のリエージュ万国博覧会のために作られたと思われる作品です。
第2章「アルザス=ロレーヌ地方」から、ドーム兄弟の作品会場にはこのほかにも凝ったデザインの器がずらり。「アール・ヌーヴォー=新しい芸術」の名に相応しい豊かな発想から生まれた作品は、いずれも眩いばかりです。
北海道から巡回してきた本展は、東京展で2会場目。この後は名古屋(
松坂屋美術館:9/12~10/18)、福岡(
福岡市博物館:2016年 2/11~3/27)、山口(
山口県立萩美術館・浦上記念館:2016年 4/23~6/19)、高知(
高知県立美術館:2016年 6/20~8/28)に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年7月3日 ]■アール・ヌーヴォーのガラス に関するツイート