高松次郎は東京生まれ。東京藝術大学を卒業後、読売アンデパンダン展での発表を皮切りに、中西夏之、赤瀬川原平らとともにハイレッド・センターを結成、ヴェネチア・ビエンナーレをはじめ国外でも活躍するなど、1998年に直腸ガンで死去するまで精力的に創作を続けました。
絵画から立体造形、パフォーマンス、写真など、多彩な手法で知的な視覚表現を追及した高松。その作品は一見では無関係のように見えながらも、背後には一貫したつながりが潜んでいます。
会場最初の作品は《No.273(影)》。モデルを描かずに影だけを描いた〈影〉シリーズは、高松を代表する作品群です。本展では本格的な作品紹介の前に、高松の〈影〉シリーズを題材にした「影ラボ」というユニークな趣向が用意されています。
異なる光源で影が二重に見えたり、回転する椅子の影が投影されたりと、「影ラボ」は4カ所。高松の思考世界に踏み出すきっかけに、と設定されました(会場内で「影ラボ」のみは撮影可能です)。
「影ラボ」では、《No.273(影)》のような二重の影も作れます展覧会は年代ごとの3章構成です。
第1章:「点」、たとえば、一つの迷宮事件 1960-1963
第2章:標的は決してその姿をあらわさない 1964-1970s
第3章:それは「絵画」ではなかった 1970s-1998
それぞれの章を、別のキュレータ―(順に桝田倫広・蔵屋美香・保坂健二朗の各氏)が担当している事も特徴的。オブジェや彫刻、絵画など約50点と、関連ドローイング類約150点が並びます。
1966-71年に手掛けた〈遠近法〉も、高松の代表的なシリーズのひとつ。「近くのものは大きく、遠くのものは小さい」という遠近法を逆手に取ったような作品です。
《遠近法の椅子とテーブル》は、1966(昭和41)年の立体作品。絵画を見るように正面から見ると特に違和感を感じませんが、横に回ると奇妙な形をしている事がお分かりでしょうか。
実は〈影〉と〈遠近法〉も関係があります。光源に近づく=キャンバス(壁面)から遠ざかると影は大きくなり、近づくと小さくなる。つまり影は逆遠近法の性質を持っているのです。
《遠近法の椅子とテーブル》本展の会場構成は、トラフ建築設計事務所。会場内に設けられた一段高い「ステージ」も楽しい仕掛けです。多彩な作品を見渡すことで、その一貫した思考を感じてもらおう、という趣向です。
ステージの床に引かれた白い線は、高松のアトリエのおおまかな大きさ。自宅に付属したこのアトリエで、高松の数々のアイデアが巣立っていきました。
最後に、高松次郎といえば、サングラス姿のダンディなポートレートも印象的。会場出口には、高松の大きな写真とサングラスも用意されています。サングラスをかけて、高松とのツーショットをお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年12月1日 ]