国内初となる、ヴァロットンの本格的な回顧展。全7章で、多様な画業を紹介します。
1.線の純粋さと理想主義
2.平坦な空間表現
3.抑圧と嘘
4、「黒い染みが生む悲痛な激しさ」
5.冷たいエロティシズム
6.マティエールの豊かさ
7.神話と戦争
ヴァロットンは1865年にスイスで生まれ、16歳でパリに出ます。当時は印象派や、フォーヴィスムなどの色彩表現が流行していた時代。ヴァロットンはデッサンを重視した絵を好み、初期は肖像画を多く描きます。
1.線の純粋さと理想主義 会場風景ヴァロットンの作品には、ナビ派の輪郭線と平坦な色使い、さらに浮世絵や写真から影響を受けた大胆なフレーミングが加わります。
代表作の「ボール」をよく見ると、手前の少女と木陰に佇む女性二人には視線のずれが。2枚の写真を参考に描いたため生じたずれですが、その違和感や不気味さにもひきつけられる魅力的な作品です。
2.平坦な空間表現 会場風景ヴァロットンは木版画も多く手がけました。本展に出品された木版画はすべて
三菱一号館美術館の所蔵。貴重なコレクションです。
アンティミテとは「親密さ」の意味で、男女のただならぬ関係を描く連作。スイスの厳格なプロテスタントの家庭で育ったヴァロットンは、パリの男女の駆け引きや社会の動きを、皮肉に満ちた視点で鋭くとらえています。
アンティミテ10作をコラージュした1枚は、版の破棄証明としての作品ですが、そのデザインの切れが感じられます。
《アンティミテ》1898年 三菱一号館美術館展覧会の最後は、戦争の影響を受けた作品が並びます。1914年から1919年にかけて、フランスは第一次世界大戦の戦禍に。ヴァロットンは従軍を志願しますが、当時すでに50歳。年齢制限で入隊を拒否されます。
従軍画家として戦地に赴いた後に描いた「ヴェルダン、下絵」はサーチライトが交錯し、戦火と噴煙が立ち上る戦場の光景。フランス東部にあるヴェルダンではドイツ軍とフランス軍が激しく戦い、両軍合わせて70万人以上の死傷者を出しました。
ヴァロットンは人や重火器など戦闘そのものではなく、激戦地跡を描くことで「戦争の脅威」を表現しました。
7.神話と戦争 会場風景、《これが戦争だ》1916年 三菱一号館美術館近年スポットが当たり始めたヴァロットンの作品を、これだけまとめて見られる機会はとても貴重。パリでの展覧会は異例の31万人を動員しました。
三菱一号館美術館の公式サイトでは、直木賞作家の角田光代さんによるヴァロットン作品にインスパイアされた小説が公開中。木版画を活かしたバッグなど、ミュージアムグッズも充実しています。
ぞくぞくするような背徳感すら漂う、魅惑のヴァロットン作品。残念ながら国内巡回はありません。
三菱一号館美術館の落ち着いた雰囲気の中で、ぜひご堪能ください。
[ 取材・撮影・文:川田千沙 / 2014年6月13日 ]■ヴァロットン に関するツイート