「霧のアーティスト」中谷芙二子さんの日本初となる大規模個展が、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催中です。80以上の霧作品は世界各地で制作され、今年2018年、第30回高松宮殿下記念世界文化賞彫刻部門を受賞されました。
「霧の抵抗」という題の展覧会。「抵抗」が意味するものがわからないまま、会場へ向かいます。
「自然と響きあう”媒介項“としての彫刻」と名付けられた部屋には、近年発表された霧作品の記録映像が流れています。公園や森などに白い霧が立ち込めていく様子は、スケールが大きく、臨場感があります。
1970年「E.A.T.」(エンジニアとアーティストによる共同創作活動を支援する団体)が手掛けた大阪万博ペプシ館で、中谷さんは1作目となる霧の彫刻を発表します。
制作過程などの貴重な資料や映像からは、様々な試行錯誤が読み取れます。
それ以降、世界各地で制作された霧作品に関する資料は、中谷さんの環境に対しての考え方や、作品への取り組み方などを教えてくれます。
現在では、よく耳にする「アート&サイエンス」「アート&テクノロジー」を50年も前に意識していたことに感心する反面、この作品が発表された万博といえば、太陽の塔しか浮かばなかった自分に憤ります。
今の時代にも通じる課題を提示してくれる作品だというのに…。
完成品としての霧作品を見ていた私に「それだけではないんだよ」と肩を叩かれたようです。
「それだけではない」中谷さんの活動の展示は続きます。1971年E.A.T.は、《ユートピア&ヴィジョンズ1871-1981》、世界4都市(スウェーデン・アメリカ・インド・日本)を通信機器テレックスでつなぎ、10年後の未来を市民が互いに質問と回答を交わし合うプロジェクトを企画します。
壁には、「社会について」「経済について」など、色々なことをやりとりした記録の一部が貼られています。その時代を象徴する言葉があるかと思えば、現在の私たちと会話しているかのような色褪せない回答があり、ドキッとさせられます。
その他、原宿に日本初のビデオギャラリーSCANをオープンさせ、国内外のビデオ作品を紹介や、海外でのビデオフェスティバルに日本作品を紹介するなどの活動も紹介されていました。
展覧会を通して、私はずっと驚いていました。
屋外の噴水広場で、霧の彫刻の新作の1つ《抵抗》が展示されています。
霧の彫刻は、地形や気象など自然の法則を緻密に計算し、角度や頻度などを決めて噴霧しています。状況は人工的に作られますが、一旦放たれる霧は気流にのり、人や物にぶつかり、自由に自然に流れています。想定内をどんどん破壊し広がります。
中谷さんは、記者会見で「変わっていく様をみてほしい。変わることは可能だと、これからの人たちに知ってほしい。」その後ろで霧がどんどん流れています。
中谷さんは、芸術を手段として、常に社会に向き合われてきました。
向い続ける強さを「抵抗」と表現しています。霧を「彫刻」と呼ぶことも、既成の概念を外すための「抵抗」です。
目の前に流れる白い霧は、美しいだけではありません。ロマンチックに酔うだけでは、もったいないことなのです。
中谷さんが生み出されてきたものは、壮大で、すぐに咀嚼できないほどです。ゆっくり、そして何度も観て、自分の中にできた霧を晴らしたいと感じます。
会場 | 水戸芸術館現代美術ギャラリー、広場 |
開催期間 | 2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日) |
休館日 | 月曜日(※ただし12月24日、1月14日(月・祝)は開館)、12月25日、1月15日(火)休館。年末年始(2018年12月27日(木)~2019年1月3日(木)) |
開館時間 | 9:30~18:00(入場17:30まで) |
所在地 | 茨城県水戸市五軒町1-6-8 |
029-227-8111(代表) |
HP : http://arttowermito.or.jp/ |
料金 | 一般 900円、高校生以下・70歳以上・障害者手帳をお持ちの方及び介護者1名は無料(要証明) |
展覧会詳細へ |
「霧の抵抗 中谷芙二子」 詳細情報 |
エリアレポーターのご紹介
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カワタユカリ
美術館、ギャラリーと飛び回っています。感覚人間なので、直感でふらーと展覧会をみていますが、塵も積もれば山となると思えるようなおもしろい視点で感想をお伝えしていきたいです。どうぞお付き合いお願いいたします。
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