フランスの国立美術学校で教授を務めていたモロー。マティスやマルケも指導した名教授でしたが、中でもルオーの才能を高く評価していました。ルオーも画家としての基礎を教えてくれたモローを敬い、モローに死後に設立されたギュスターヴ・モロー美術館の初代館長はルオーが務めています。
本展は、ギュスターヴ・モロー美術館の現館長であるマリー=セシル・フォレスト氏が監修。2015年には同美術館にも巡回しますが、世界に先駆けて
パナソニック 汐留ミュージアムで始まりました。
会場入口から入口近くの大きな絵は、ジョルジュ・ルオーによる《石臼をまわすサムソン》。モローの指導を受けたルオーがローマ賞に出展するために描いた、生涯最初の大作です。
興味深いのは、この作品を模写したモローの作品も展示されていること。同じテーマで描いた別案と、ルオー作品の全体像を再現した方眼線入りの模写が紹介されています。
弟子が師の作品を模写することは良くありますが、師が弟子の作品を描くのは極めてまれ。ルオーはこの模写を大切に保管していました。
ジョルジュ・ルオー《石臼をまわすサムソン》と、モローによる模写右奥にあるのは、ギュスターヴ・モローの《ユピテルとセメレ》。神話を主題に描かれた作品で、完成作のための油彩下絵と考えられています。
王の杖と蓮の花を持つのは、神々の支配者ユピテル。ユピテルの子を身篭ったセメレは、ユピテルの本当の姿を見た途端に稲妻に焼き尽くされてしまいます。
ギュスターヴ・モローの《ユピテルとセメレ》会場は「ギュスターヴ・モローのアトリエ」「裸体表現」「聖なる表現」「マティエールと色彩」と進みます。それぞれのテーマで、モローとルオーの作品を比較して見られる構成です。
最終セクションは、日本展だけの特別コーナーである「幻想と夢」。モローの代表的テーマに関する油彩や水彩、パナソニック汐留ミュージアムが所蔵するルオーの優品も紹介されています。
会場モローは学生に「私は橋です。君たちの何人かがその上を渡っていくでしょう」と語っていました。気高く大きな橋だったモローと、力強く渡っていったルオー。美しい師弟愛の軌跡をお楽しみください。
なお本展は2013年12月20日(金)~2014年3月23日(日)、
松本市美術館に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年9月6日 ]