シンガーミシン創業者の孫であるスターリング・クラークと妻フランシーヌが収集したコレクションを紹介するクラーク美術館は、1955年に開館しました。
美術館の知名度は日本では高いとは言えません。美術館は米国マサチューセッツ州のウィリアムズタウンの森の中にあり、アクセスはボストンから車で約3時間。日本人観光客が気楽に訪れるような場所ではないのです。
コレクションは19世紀欧米の美術、工芸、写真など幅広く、中でもフランス絵画の充実ぶりには定評があります。
本展は2010年からの同館増改築工事に伴う世界巡回展で、欧州や北米を巡っていよいよアジアへ。
三菱一号館美術館での本展が、アジアでの初回となります。
冒頭はカミーユ・コローから。ほぼ年代別の展示です出品作は73点で、すべて油彩画。ルノワールの22点をはじめ、ピサロ7点、モネ6点、シスレー4点など、印象画のオールスターが揃いました。
こちらはエドガー・ドガ。ドガは印象派展に参加しましたが、他の印象派の画家とは異なり、戸外ではなく室内の人物画も多く描きました。得意の踊り子の作品も含めて、展覧会では4点が紹介されています。
ドガは4点そして、壁一面にずらっと並ぶピエール=オーギュスト・ルノワール。ミニ・ルノワール展ともいえる装いです。
頬杖をついてこちらを見つめる少女が魅力的な作品は、展覧会メインビジュアルの≪劇場の桟敷席(音楽界にて)≫。実は右上部の茶色いカーテンの部分には、第3の人物(男性)が描かれていました。よく見ると、その痕跡が肉眼でも分かります。
ルノワールの作品がずらり展覧会の広報では人気のルノワールと印象派が前面に出ていますが、同様に注目したいのがアカデミスム絵画の優品です。
美術史の流れから、後年には不当に低評価となったアカデミスム絵画ですが、卓越したデッサン力の優美な絵画は見事。理屈抜きの美しさです。
ウィリアム=アドルフ・ブグロー≪座る裸婦≫などアルフレッド・ステヴァンスの≪公爵夫人(青いドレス)≫も、小品ながら味わい深い一点。背景の屏風やテーブルクロスからは、当時の熱狂的な日本趣味が伝わってきます。
アルフレッド・ステヴァンス≪公爵夫人(青いドレス)≫などちなみにクラーク美術館の増改築を手掛けているのは、安藤忠雄さん。日本人建築家の仕事がもたらしてくれた、日本で見られる奇跡の名画。フランス絵画の見本市のような豪華な展覧会をお楽しみください。
なお、本展は
兵庫県立美術館に巡回(2013年6月8日~9月1日)。その後には上海、ソウルと巡ります。(取材:2013年2月8日)