「GA」シリーズをはじめとする建築書で知られる、A.D.A.EDITA Tokyo Co.,Ltd.。同社を1970年に設立した二川幸夫さんは、現在でも世界中の建築を撮り続け、その確かな評価眼は高い信頼を得ています。
本展は、若き日の二川さんが撮影した日本の民家の写真展です。
ひときわ目をひく会場構成を手掛けたのは、2012年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際展で金獅子賞を受賞し、今、最も注目されている若手建築家である藤本壮介さん。二川さん自身によるご指名です。
藤本さんは、壁に写真を並べ、人が壁に沿って流れていくのではなく、一枚一枚の写真が自立し、それぞれ違った角度で展示する手法をとりました。
会場は「京・山城」から「高山・白川」まで10のエリアで構成。来館者は写真の間を縫うように歩いていきます。
今から50数年前、早稲田大学の学生だった二川さんは岐阜・白川を訪ねた際に、民家の美しさに心を奪われ、以降、日本中を旅して民家の写真を撮り続けました。
当時は日本が経済的に飛躍しはじめた時代。いにしえの民家はその役割を終えて、次々に姿を消していました。
「民家の中に民衆の働きと知恵の蓄積を発見し、この現代に生きつづけているすばらしい過去の遺産を、自分の手で記録しようと思いたった」(1957年 二川幸男「日本の民家」より)という二川さん。 撮影された写真は美術出版社から「日本の民家」全10巻として刊行され、大きな反響を呼びました。
これが建築写真家としての二川さんのデビュー作。現在まで続く長いキャリアの原点といえる作品です。
地方の空洞化が指摘されてから久しく経ちますが、震災を機に、改めて自分たちが生まれ育った地域の文化を見直す動きも高まっています。
急斜面を開発し、要塞のような石積みで囲われた集落。養蚕に必要な通気を確保するため、特徴的な屋根を形持つ住宅…。バラエティ豊かな民家の姿は、それぞれの地域が持っている固有の風土や産業から生まれたものです。
モノクロ写真で浮かび上がる、圧倒的な民家の迫力。現代の私たちが失ってしまった暮らしですが、強く心に響きます。(取材:2013年1月25日)