各所で何度も開催されている北斎の展覧会。生誕260年のメモリアルイヤーを記念した本展では、肉筆画に焦点をあてて、その長い画業を展観します。
展覧会は第1章「春朗から北斎へ」から。勝川春章の門下だった北斎。19歳の頃、勝川春朗としてデビューしました。勝川派を離れた後には、琳派の一門として俵屋宗理、さらに北斎辰政とも名乗ります。
《立美人図》は、肉筆画を数多く手がけていた40代前半の時の作品です。すっきりとした女性の描き方は、この後の美人画とは違いが見られます。左下の署名で、フランスの小説家、エドモン・ド・ゴンクールの旧蔵品だった事が分かります。
第2章「北斎美人画の二大傑作」は、葛飾北斎を名乗っていた頃。ほぼ同時期に描かれた、ふたつの名品が並んで紹介されています。
うつむき気味に帯を締めなおす《美人夏姿図》は、着物の萩の模様が涼し気。手鏡に顔が映る《夏の朝》は、足元の小道具で季節や時間が暗示されています。
第3章は「戴斗・為一時代」。『北斎漫画』や「冨嶽三十六景」を手掛けていた時代で、肉筆画の制作は多くありません。
《傾城図》は戴斗の時代の貴重な肉筆画。「ムサシシモフサ(武蔵下総)」のように読める印は10点ほどしか例がなく、貴重な作品です。
《堀河夜討図》は、戦前から名高い名品です。有名な逸話で、頼朝が仕向けた刺客を静御前が察し、義経に武具を渡す場面。上から義経、静御前、弁慶と、動きがあるS字にレイアウト。細密描写も見どころです。
《菊に蝶文花器》は、アールヌーヴォーのガラス作家、エミール・ガレの作品です。器の下部に『北斎漫画』から引用された蛙のモチーフが見て取れます。
第4章は「《冨嶽三十六景》誕生」。岡田美術館は冨嶽三十六景の‘三役’と称される「神奈川沖浪裏」「凱風快晴」「山下白雨」を収蔵。会期中に1点ずつ展示されます。
最後の第5章は「画狂老人卍」。画にかける情熱は年を重ねるごとに強くなり、最晩年でも鬼気迫る創作を続けます。
《雁図》は「八十八老卍筆」とある事から、数えで88歳の作品。クチバシから覗くギサギサは、カメラのズームでないと見つけられないほどです。
北斎の画題としては珍しいカラスを描いた《雪中鴉図》。よく見ると、カラスの身体は墨の濃淡だけではなく、藍色も使われている事が分かります。
写真や動画では紹介できませんが、北斎の春画《浪千鳥》と『萬福和合神』(個人蔵)も展示されています。北斎は知名度のわりに春画の作例は多くありません。
人気の岡田美術館オリジナルチョコレートは、展覧会にあわせて『波と富士』が登場。「ピーチアプリコット×ベルベンヌ」「ベルガモット×アールグレイ」など8種の味がお楽しみいただけます。ミュージアムショップにてお求めください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年4月7日 ]