著名な美術館に自分の作品を勝手に陳列するなど、過激な方法で衆目を集めているバンクシー。2018年10月にはオークションで落札された直後の作品がシュレッダーで切り刻まれ、こちらも大きな話題になりました。
今回は、2018年からモスクワ、サンクトペテルブルク、マドリード、リスボン、香港と巡回した「BANKSY GENIUS OR VANDAL?(バンクシー展 天才か反逆者か)」の日本版。バンクシー自身がオーソライズした展覧会ではないものの、これだけのバンクシー作品をまとめて見られる機会は、日本で初めてとなります。
本展では個人コレクターが所有する作品が集結。オリジナル作品や版画、立体オブジェクトなど70点以上が出品されています。ストリートでゲリラ的に描かれるバンクシーの作品は、しばしば塗りつぶされてしまうため、現存作品は多くあませんが、会場内には消される前の作品を撮影した写真なども多くされています。
会場はいくつかのテーマを設けて、関連する作品を展示。バンクシーが作品に込めた意図に迫ります。
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作品の中で頻繁に取りあげられるテーマのひとつが、反消費主義。マーケターの戦略に踊らされて、意味のない消費を続ける私たちの人生を、痛烈に笑い飛ばします。
政治も、バンクシーが好むテーマのひとつ。大衆の意識を操作する政治に警鐘を鳴らし「世界をよりよい場所にしたいと望んでいる人間ほど危険なものはない」(バンクシー)と語ります。
展覧会の見どころのひとつが「ザ・ウォールド・オフ・ホテル」の再現。2017年にベツレヘムにオープンした10部屋のホテルで、実際のホテルは、イスラエルとパレスチナを隔てる分離壁が、どの部屋からも見えます。
再現された部屋の壁には、バンクシーの絵画が。イスラエル兵とパレスチナ人が、羽毛を撒き散らしながら、枕を振り回して戦う様子です。
「ディズマランド」も著名な作品です。2015年の8月から9月に期間限定で開園された「小さな子供たちには不向きなファミリーテーマパーク」(バンクシー)で、ダミアン・ハーストやジェニー・ホルツァーらの作品が設置されました。展覧会では映像などが紹介されています。
バンクシーのイメージとして最も知られているのが、風船に手を伸ばす少女の像《GIRL WITH BALLOON》。シュレッダーにかけられたのも、この図像でした。
展覧会プロデューサーのアレクサンダー・ナチケビア氏によると、実に一般の英国人の7割がこの作品の作者がバンクシーと理解しているとの事。これは、現代美術作品としては、極めて高い数値です。
通路を挟んだ向かいの展示室では、映像で見るバンクシーの軌跡も。大型の3面スクリーンで、バンクシーのこれまでの活動が紹介されています。
世界的な認知を受けてもなお、覆面アーティストとして活動を続けるバンクシー。従来の美術の枠外にいる事は間違いありませんが、美術ファンならチェックしておかなければならないのもまた、間違いないでしょう。
会場は横浜のアソビル。横浜駅みなみ東口通路から直通で行けますが、入り口がちょっと分かりにくいかもしれません。アソビルの公式サイトでご確認の上、お出かけください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年3月13日 ]