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    レポート
    浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに
    大倉集古館 | 東京都
    17世紀初期風俗画から幕末まで。著名な浮世絵師が描いた肉筆美人画の競演
    菱川師宣、喜多川歌麿、葛飾北斎など時代順の構成で、浮世絵の歴史を通覧
    あわせて艶やかな春画の名品も紹介。大幅に展示替えして後期展がスタート

    浮世絵師たちが描いた絵画作品である、肉筆浮世絵。版画とは違い1点ものであるため、希少性が高いことはもちろん、絵師たちの実力がストレートに感じられることが大きな魅力です。

    17世紀の初期風俗画から幕末まで、著名な浮世絵師たちが描いた肉筆美人画でたどるとともに、艶やかで美しい春画の名品を合わせて紹介する展覧会が、大倉集古館で開催中。5月8日(水)からは後期展示が始まりました。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場
    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場


    多くの作品が展示替えされて始まった後期展。会場は最終章の春画をのぞいて、時代順の構成です。

    人々の暮らしを描く風俗画は、日本では室町時代後期に誕生しました。当初は屏風などの大画面でしたが、寛永後期から寛文期になると小画面の掛軸で単独像が描かれるようになりました。

    その時期に活躍しはじめたのが、武家出身の岩佐又兵衛です。「又兵衛風」とされる豊かな頬と長めの顎をもつ美人像が、多数制作されました。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場より 岩佐又兵衛《連舞之図》江戸時代 17世紀中期 個人蔵
    岩佐又兵衛《連舞之図》江戸時代 17世紀中期 個人蔵


    最初の浮世絵師・菱川師宣が登場したのは、17世紀後期です。又兵衛風を変容させた美人風俗画で、大いに人気を博しました。

    その師宣による《美人立姿図》は、濃紅地の小花模様の小袖を纏った女性像です。表裏から彩色が施され、着物の模様に立体感を出しています。

    実は師宣の生家は縫箔業。師宣は縫箔の下絵を描きながら、腕を磨いていきました。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場より 菱川師宣《美人立姿図》元禄(1688〜1704)(公財)摘水軒記念文化振興財団蔵
    菱川師宣《美人立姿図》元禄(1688〜1704)(公財)摘水軒記念文化振興財団蔵


    師宜の後に美人画を牽引したのが、懐月堂安度と宮川長春です。

    安度は絵馬屋出身ともされ、誇張された輪郭線による大柄な美人像が得意です。《文書く美人図》にも、その特徴がよく現れています。

    長春はもとは師宣系の絵師です。たおやかな面相・容姿の美人像を描きました。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場より (左から)宮川長春《蚊帳文詠美人》享保(1716〜36)頃 個人蔵 / 松野親信《床几にかける美人図》宝永〜正徳(1704〜16) 個人蔵 / 懐月堂安度《文書く美人図》宝永〜正徳4年(1704〜14) 個人蔵
    (左から)宮川長春《蚊帳文詠美人》享保(1716〜36)頃 個人蔵 / 松野親信《床几にかける美人図》宝永〜正徳(1704〜16) 個人蔵 / 懐月堂安度《文書く美人図》宝永〜正徳4年(1704〜14) 個人蔵


    多色摺木版画である錦絵は、浮世絵を大きく変えました。錦絵が広まったことで浮世絵を求める人々が増え、優れた絵師が続々と世に出ていきました。

    錦絵の祖が鈴木春信なら、勝川春章はその後継者といえる存在。春章の《青楼遊宴図》は、大火後の吉原の仮宅を描いたと考えられる作品です。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場より 勝川春章《青楼遊宴図》天明8年(1788)頃 個人蔵(旧ビゲローコレクション)
    勝川春章《青楼遊宴図》天明8年(1788)頃 個人蔵(旧ビゲローコレクション)


    そして、浮世絵の美人画では圧倒的な人気を誇る、喜多川歌麿が登場します。歌麿は女性の心理描写に優れ、数多くの名品を描きました。

    《雪兎図》は縁先で雪兎をつくる少女と、幼い子を抱く母親らしき人物を描いた作品。家族の繁栄を願って注文されたものかもしれません。

    《納涼二美人図》には、格子柄の浴衣で胸元がはだけた女性と、身分が高そうな上品な女性。歌麿最晩年の優品です。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場より (左から)喜多川歌麿《雪兎図》寛政8~享和3(1796~1803)頃 個人蔵 / 喜多川歌麿《納涼二美人図》文化元~3年(1804~06)個人蔵
    (左から)喜多川歌麿《雪兎図》寛政8~享和3(1796~1803)頃 個人蔵 / 喜多川歌麿《納涼二美人図》文化元~3年(1804~06)個人蔵


    歌麿に続くように人気を集めたのが、葛飾北斎です。師の春章譲りの巧みな筆技と奇抜な造形で、浮世絵に新たな風を呼び込みました。

    その北斎による重要文化財《二美人図》は、艶やかな二人の女性を鮮やかな濃彩で描いた名品です。華奢な体や楚々とした瓜実顔は「宗理風美人」と称され(宗理は当時の北斎の号)、この時期の北斎の美人画の特徴です。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場より 重要文化財 葛飾北斎《二美人図》享和(1801〜04)頃 MOA美術館蔵
    重要文化財 葛飾北斎《二美人図》享和(1801〜04)頃 MOA美術館蔵


    幕末に浮世絵界の最大勢力を誇ったのは、歌川派でした。開祖の豊春は錦絵版画でも活躍しましたが、肉筆の美人画も数多く描き、作品は高貴な趣味人たちに愛されました。

    豊春による《遊女と禿図》は、華やかな花魁が禿(かむろ)を連れて歩く様子を描いた作品です。打掛に描かれている滝を上る鯉は、中国の故事「登竜門」を題材とした文様です。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場より 歌川豊春《遊女と禿図》寛政(1789~1801) 中外産業株式会社蔵(原安三郎コレクション)
    歌川豊春《遊女と禿図》寛政(1789~1801) 中外産業株式会社蔵(原安三郎コレクション)


    春画の展示は地下、15歳未満は鑑賞不可です。

    日本における春画は、漢画系・やまと絵系を問わず、古くからさまざまな絵師が手がけています。浮世絵が誕生すると、各時代に活躍した浮世絵師たちは、例外なく春画を描いています。

    鳥文斎栄之による《源氏物語春画巻》は、全12図2巻から成る豪華な画巻です。女性遍歴を重ねた光源氏を表しており、各図の色紙形には源氏物語の巻名と源氏香、巻を象徴するモチーフが描かれています。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場より 鳥文斎栄之《源氏物語春画巻》寛政(1789〜1801)末〜文化(1804〜18)頃 個人蔵
    鳥文斎栄之《源氏物語春画巻》寛政(1789〜1801)末〜文化(1804〜18)頃 個人蔵


    歌川豊広の《男女風俗図》は、あからさまな春画ではありませんが、男女の親密な情景を集めた作品です。

    町人の妻と思しき女が夫の浮気を責めたり、戯れかかった男に女が煙管を振り上げてたしなめるなど、ユーモラスな場面が特徴的です。


    大倉集古館「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」会場より 歌川豊広《男女風俗図》寛政(1789〜1801)初期 千葉市美術館蔵
    歌川豊広《男女風俗図》寛政(1789〜1801)初期 千葉市美術館蔵


    著名な浮世絵師の作品がずらりと並ぶ、見応えがある会場。時代順の構成で、浮世絵史をたどるように楽しく鑑賞できる展覧会です。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年5月8日 ]

    菱川師宣《紅葉下立美人図》元禄元〜7年(1688〜94)個人蔵
    重要文化財 勝川春章《雪月花図》天明7〜8年(1787〜88)MOA美術館蔵
    歌川国芳《三美人化粧之図》嘉永(1848〜54)(公財)摘水軒記念文化振興財団蔵
    鳥居清信《春秋絵巻》正徳(1711〜16)頃 (公財)摘水軒記念文化振興財団蔵
    会場
    大倉集古館
    会期
    2024年4月9日(火)〜6月9日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:00~17:00(入館は16:30まで)
    毎週金曜日は19:00まで開館、入館は18:30まで
    休館日
    毎週月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、ただし4月30日(火)は開館
    住所
    〒105-0001 東京都港区虎ノ門2-10-3 (オークラ東京 正面玄関前)
    電話 03-5575-5711
    料金
    一般:1,500円
    大学生・高校生:1000円※学生証をご提示ください。
    中学生以下:無料
    ※各種割引料金は、「利用案内」をご覧ください。
    展覧会詳細 「浮世絵の別嬪さん―歌麿、北斎が描いた春画とともに」 詳細情報
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