2023年10月に開館40周年を迎えた東京都庭園美術館。「建物公開2023 邸宅の記憶」展、「フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン」展、「装飾の庭 朝香宮邸のアール・デコと庭園芸術」展など、40周年事業として開催された展覧会もフィナーレを迎えました。
今回の展覧会では、AからZまで散りばめられた26のキーワードで館内を紹介していきます。
東京都庭園美術館 外観
東京都庭園美術館の建物は、皇族・朝香宮家の邸宅として1933年(昭和8)に竣工。その後、外務大臣・首相の公邸や迎賓館としてなど、時代とともに役割を変えながら様々な方々を招いてきました。
会場では、建築技法や建設に携わった人々、意匠や各時代のエピソードなどを紹介していますが、ここでは26個のキーワードのうちのいくつかを紹介していきます。
先ず紹介するのは、美術館のシンボルと言える「Perfumed Fountain(香る香水)」。アンリ・ラパンがデザインした磁器製のオブジェの上部に香水を注ぎ香りを漂わせたことから「香水塔」の名で呼ばれています。
「Perfumed Fountain(香る香水)」
庭園を望む南向きの開放的な窓をもつ大食堂。天井にはルネ・ラリックによるパイナップルとザクロのシャンデリア、壁際にはアンリ・ラパンが手がけたフルーツが描かれ、エッチング・ガラス扉には果物やワイングラスがあしらわれ、まさに「Eat with Your Eyes(食べられそうな空間)」となっています。
「Eat with Your Eyes(食べられそうな空間)」
2階の書斎に入ると目に留まるのは「Rotating Desk(回転する机)」です。デスクや椅子、電話台、絨毯などの家具一式はすべてアンリ・ラパンによるデザイン。デスクの最下部の台座にはレールが敷かれ、回転する構造となっています。
第二次大戦後、吉田茂が外務大臣・首相官邸として使用した際の写真も残されています。
「Rotating Desk(回転する机)」
浴室にも隣接している庭園の窓を覗くことができるベランダは、1日を通して日当たりが良くサンルームの役割も果たしていました。壁に貼られたグレーの「白鷹」や市松模様の床の「銀星」や「薄雲」など国産の大理石が用いられた非日常を味わえる特別な空間です。
ここは殿下と妃殿下の部屋からのみ、行き来ができる空間だったことから「Yours and Mine(二人のための)」寛ぎ空間であったことが感じられます。
「Yours and Mine(二人のための)」
2階北の間には、ゲストアーティストの伊藤公象(1932-)による作品が展開されています。土を焼成する技法を用いながら、即興性や自然現象を制作過程に取り込む手法で土造形のパイオニアとして高い評価を確立している伊藤。陶パーツを床に敷き詰めたインスタレーションは、波動にも似た、まるで生命が宿るような感覚も感じられます。
伊藤の作品は、庭園など3か所で楽しむことができます。
伊藤公象《「土の襞」―白い光景―》陶土 2006年 作家蔵
もう一人のゲストアーティストは、朴の木を素材に本物の植物のような精巧な彫刻をつくりだしている須田悦弘(1969-)。館内には、自身のお気に入りの6つの場所に作品を設置しています。
出品リストはありますが、宝探しのような感覚で会場をくまなく探していくと、空間に溶け込んだ草花が姿を現します。
須田悦弘《椿》木に彩色 2024年 作家蔵
須田悦弘《コヒルガオ》木に彩色 2024年 作家蔵
最上階となる3階に位置するのは、温室の役割をになったウインターガーデン。室内に用意されたスチールパイプ製の家具一式は、竣工前年に鳩彦王殿下が自ら購入したもので、「Deep Attachments and Good Eyes(愛着と目利き)」を知ることができます。
「Deep Attachments and Good Eyes(愛着と目利き)」
新館 ギャラリー1では誰と家をつくり、どんな空間にしてきたのか、朝香宮の家づくりをおさらいすることができます。
新館 ギャラリー1
各部屋には、AからZのキーワードについて書かれたカードが用意されています。カードを集めながら、またそれぞれの空間や装飾のネーミングを想像しながら巡ることで、旧朝香宮邸を再発見できるかもしれません。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2024年2月17日 ]