個展を定期的に開きつつ、ファッションブランドや画材メーカーなど、さまざまな企業とのコラボも展開するヒグチユウコ。繊細なタッチが作り出す独特な世界観は、女性を中心に幅広い層に支持されています。「かわいい」の一言では片づけられない、中毒性があるヒグチの作品。本展も、何度も足を運びたいと思う展覧会です。
本展は、画業約20年で描かれた作品を紹介する、初めての大規模個展です。展示作品総数は約900点。そのうち、ヒグチの絵画やイラストが約700点紹介されています。では、早速…とご紹介したいところですが、この膨大な数。見どころのみとします。
サーカスの入り口を模した展示室入口には、赤い布が。文学館の企画展示とは思えない会場の作りこみに驚きつつ、中へ入るとギュスターヴくん1号がお出迎えしてくれます。会場の壁に描かれているキャラクターは、ヒグチが直接描いたもの。壁のほか、展示物などいたるところに、直筆の落書きがあります。
8つのゾーンで構成される本展。メインとなる展示室中央の「サーカス」ゾーンは必見です。赤い壁で囲われた空間には、ヒグチと公私ともに親交が深い、黒色すみれ(ヴォーカル・ピアノ・アコーディオン担当・ゆか、ヴァイオリン担当・さちの女性デュオ)の音楽が流れ、サーカス会場の雰囲気を演出しています。
ぬいぐるみ作家・今井昌代による造形作品《カカオカー・レーシング》も、会場中央に展示されています。これがまたかわいい! 円形の展示台の上に、カカオの車に乗った猫などの動物たちがレースをするその姿が、とても愛らしいです。
遊び心も満載で、ヒグチ・ワールド全開の「サーカス」ゾーン。「中を見せて」と思うところを、あえて入口の写真と文章のみでご紹介したのは、会場で驚いてほしいからです。
「和」のゾーンでは、《GUSTAVE若冲雄鶏図》の掛け軸や座布団、《猫風神雷神図》など、「和」をテーマにした作品が並びます。見上げると、虎柄パンツを履いた鬼のニャンコの作品が、ご先祖様の写真のように。田舎のおばあちゃんの家を思い出す展示はユニークです。和室の中にも、ぬいぐるみが潜んでいます。目を凝らして探してみてください。
全国へ巡回する本展ですが、展示室内の和室の空間を生かした展示ゾーンなどは、世田谷文学館でしか見られないかもしれないとのこと。お見逃しなく。本展終了後、兵庫、広島、静岡、高知へ巡回。その他の巡回先も公式サイトで順次公開が予定されています。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2019年1月23日 ]