大阪高島屋7階グランドホールで開催中の高野光正コレクション「発見された日本の風景」展に行ってきました。
高野光正とはだれか?寡聞にして存じ上げていませんでしたが、ひとりの個人コレクターの熱意によって、明治期の日本絵画を網羅的に眺めることができました。
また、従来の明治期の日本絵画史に新たな側面を加えた画期的な展覧会と言えます。
笠木治郎吉 《牡蠣を採る少女》 所蔵:高野光正コレクション
高野光正コレクションとは?
高野光正とはだれか?即座に答えられる人は、相当の美術愛好家、絵画に詳しい人と言えるかもしれません。
光正の父、時次氏は浅井忠のコレクターとして知られ、東京国立博物館へ浅井忠の水彩画73点を一括寄贈された方です。
息子の光正氏もニューヨークのクリスティーズで鹿子木孟郎「上野不忍池」を落札したことをきっかけに日本人作家の作品を蒐集し始めました。その数は、なんと700点に及びます。 鹿子木孟郎「上野不忍池」が、その膨大なコレクションの栄えある1号コレクションになりました。
鹿子木孟郎《上野不忍池》 所蔵:高野光正コレクション
今回の展覧会に展示される作品はすべて、高野光正氏が半生をかけて海外で蒐集し、日本に里帰りしたものです。
明治の日本の人々や暮らしを、日本人や日本を訪れた外国人が描いた作品
100年以上前の日本の風景が、人々が、生き生きと描かれています。日本人なら懐かしく思い出す風景、現在と様変わりした景色、100年経っても変わらない暮らしなどを見ることができます。
五百城文哉《花嫁の行列》 所蔵:高野光正コレクション
アメリカ人画家ハリー・ハンフリー・ムーアが描く日本人の姿は、生き生きと躍動感に満ちています。単なる日本趣味にとどまらない魅力的な絵です。
ハリー・ハンフリー・ムーア《食事中の宿屋の番頭》 所蔵:高野光正コレクション
明治の日本を旅して描いた日本人や日本を訪れた外国人の作品
旅の中で絵を描くというのは、日本を含む東洋やイギリスで行われてきました。明治になり、日本人画家も、日本を訪れた外国人の画家も、日本の文化や自然に興味を抱き、日本中を旅して絵を描きます。
吉田博《月下の水車小屋》 所蔵:高野光正コレクション
チャールズ・ワーグマンは、イギリス人画家で幕末に来日、日本のさまざまな事件や風俗を描き、五姓田義松や高橋由一などを教えました。日本人女性と結婚し、生まれた子が小澤一郎(チャールズ・A・ワーグマン)で、父から水彩画の手ほどきを受けました。
外国人によって日光の絵が多く描かれましたが、当時、日光は、外国人が療養する場所に指定されていたためです。
小澤一郎(チャールズ・A・ワーグマン)《中禅寺湖畔の宿》 所蔵:高野光正コレクション
富士山は、永遠のテーマ
日本人にとって、富士山は特別な山ですが、外国人にとっても、浮世絵などに描かれる富士山などによって、富士山へのあこがれがありました。
会場風景
コンスタンス・フレデリカ・ゴードン=カミングは、富士登山に挑んだ初外国人女性の一人であり、多くの富士山を描いていますが、展覧会に展示されている「富士山と箱根湖」は、日本初公開の作品です。
コンスタンス・フレデリカ・ゴードン=カミング《富士山と箱根湖》 所蔵:高野光正コレクション
Who was J.Kasagi?
今回の展覧会で全作品11点が展示されている笠木治郎吉(かさぎじろきち)は、2000年代まで詳しいことがわからない「幻の」画家でした。
絵には、J.Kasagiとサインがあったので、高野さんが日本中の笠木姓に電話をかけて、画廊をやっておられた親族の方を見つけます。親族の方は、「祖父が画家だったことはわかっていますが、絵は1枚もありません」と言われたそうです。
そして、高野コレクションが公開されると、その迫力ある絵が話題になりました。彼の作品11点を間近に見ることができます。
笠木治郎吉《花を持つ少女》 所蔵:高野光正コレクション
今展覧会では、明治期の日本の絵画史におけるメインストリームではない流れを垣間見ることができ、知らなかったことも多く、興味が付きません。
とはいえ、余計なことは考えず、すなおに明治の空気を楽しむといいのかもしれません。
[ 取材・撮影・文:atsuko.s / 2023年9月8日 ]
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