江戸時代に甲冑などを制作していた精緻な技法は、明治時代に形を変え、様々な超絶技巧の工芸品へと進化してきました。
今回、それら明治時代の美術家たちの素晴らしい作品と、そのDNAを受け継ぎ、独自の技として磨き上げてきた現代の作家たちの作品が、一挙に集結。作家の強いこだわりを感じ、新しい驚きでいっぱいになれる展覧会「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA展」が、2023年7月1日(土)~9月3日(日)まで、あべのハルカス美術館にて開催されています。
会場風景
会場風景
これまでにも超絶技巧を紹介する展覧会は開催されてましたが、今回は特に現代の様々な分野のアーティストに注目した構成になっており、実に多種多様な驚きにあふれた展覧会でした。
まずは、今回いたる所で見かけるスルメの作者である前原冬樹さんの木彫、一刻シリーズ。 《〈一刻〉スルメに茶碗》は鎖にクリップ、スルメの足先まで全部を一本の木から掘り出した、本物かと見まごう作品です。また、本物の革の質感を見事に表現した《〈一刻〉グローブとボール》など、どの作品も素晴らしい完成度です。
会場の映像資料の中では、「絶え間ない作業の合間に接着しちゃおうかなという悪魔の囁きが脳裏に浮かぶ。誰にもわからないと思う・・・でも俺にはバレてるよな」、という作者の生の声も紹介されていました。そんな妥協なしの作品たち、必見です!
前原冬樹 《〈一刻〉スルメに茶碗》2022年、朴、油彩、墨
一方、前原冬樹さんとは対照的なアプローチを試みているのが、今回最年少の福田亨さんの立体木象嵌です。木の持ち味を生かした小さなパーツを組み合わせた作品は、全てのパーツが自然なままの無着色なのに、繊細で鮮やかな自然界の一瞬を切り取った作品になっています。
蝶たちが飲んでいる水滴さえも本物の水滴そのもの。これはなんと、木を薄く磨き上げた賜物だとか。このこだわりと美しさ・・・本当に素晴らしい世界でした。
福田 亨《吸水》2022年、黒檀、黒柿、柿、真弓、朴、苦木、柳、ペロバローサ
一夜しか咲かない月下美人という植物。そんな儚い命の咲きざまを木彫で表現した大竹亮峯さんの「月光」。繊細な花を硬い木で表現しているだけでも驚きなのに、水を注ぐとまるで本物のように花開きます。
大竹亮峯《月光》2020年、鹿角、神代欅、楓、榧、チタン合金
陶磁器を変幻自在に焼き上げた稲崎栄利子さんの作品は、小さなビーズのようなパーツを沢山連ねて一気に焼成したものだそうです。一目見ただけでは一体どういう素材でできているのかわからない。白くて美しくて、これが土からできている陶磁器だなんて、本当に驚きでいっぱいです。
稲崎栄利子《霧雨》2018年、陶土、磁土
ガラス細工の青木美歌さんの作品では、水の世界へといざなってくれます。水の中にいる生命体の中を遊覧しているような、時が止まった菌類の世界みたいに感じました。
青木美歌《あなたと私の間に》2017年、ガラス、ステンレススティール
盛田亜耶さんの切り絵。会場では、アクリル板に収められていて細部までゆっくり見ることができます。信じられないくらい細く、まるでペンで描いたかのような線で表現された作品は、平面なのに3Dのように浮き上がって見え、思わず溜め息が出てきます。
盛田亜耶《ヴィーナスの誕生Ⅱ》2022年、紙
蝋燭を灯すと龍が動き出す、金工の本郷真也さんの《円相》。また《Visible 01 境界》のカラスの体内には、餌と間違えて飲み込んだ銀の異物が入っているそうです。そんなの見えないのになぜ?と思いましたが、いつか鉄が朽ち果てて内部が見えるという、時間経過までも表現されています。
どの作家にも共通して感じたのは、このこだわりがあってこそ、ここまで突き詰めた作品が生まれるのかもしれません。
本郷真也《円相》2023年、鉄、金
この他にも、古いモノクロ写真のような山口英紀さんの水墨画をはじめ、漆工、ペーパークラフト、刺繍など見どころがいっぱいです。とにかく、技、技、技!本当に技の世界に迷い込んだよう。超絶技巧というと少し堅苦しく感じてしまいますが、まずは一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
目にも麗しく、五感に響く感動もいっぱい。とても素敵な展覧会でした。
[ 取材・撮影・文:Marie / 2023年6月30日 ]
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